[特集:デジタル関連法案⑯] 神奈川県のLINEを使った新型コロナ対策パーソナルサポート

 
 同じようなサービスは各自治体が今は行っていますが、最初にLINEを使った新型コロナ対策を始めたのが神奈川県です。個人情報の取扱いなどがどのようになっているのかを調べるため、神奈川県に関係文書の情報公開請求をしていました。

 公開されたのが、神奈川県とLINE社の間で締結された「LINEを利用した新型コロナウイルス個別情報提供システム等に関する覚書」、これに付属するものとして「実施細目」、県と慶応大学との間の「蓄積データの調査分析に係る共同研究覚書」と「プロジェクト計画書」です。

 「覚書」「実施細目」は県とLINE社の間のもので、「実施細目」によると、このシステムで行われるアンケートや個人の健康状態に合わせた対処方法をAIチャットボットを使って行うことや、アンケート回答者へのフォローアップを実施するのは県であり、アンケート回答などのデータは慶応大学で管理できるとしています。一方でLINE社は、「データを管理し、分析し、また分析結果を公表する義務を負わず、かつ、自ら管理するサーバに保存しない」としています。

 LINE社側にはユーザーがLINEを使った履歴(ログ)は残るのではないかと思いますが、アンケート等の回答やチャットボットの情報などは保持していないということのようです。住民票の交付請求などでLINEを利用している自治体もありますが、LINE側にデータを残さないで行政サービス等に利用していることが多いようで、今回の事態を受けても利用停止していない自治体が多いようです。

 では、神奈川県の新型コロナ対応ではデータはどうなっているのか。「共同研究覚書」では、アンケート等で収集・蓄積した関連データの調査分析を県と慶応大学が連携・協力して行うこと、LINEアカウントを通じて個人から収集・蓄積したデータを大学に提供し、大学は調査研究事業終了後5年間保管して廃棄するとしています。「プロジェクト計画書」では、大学との共同研究プロジェクトとしてサービスに関する運用を行うものになっているため、LINEはインターフェイス、実際の運用や個人情報の利用は大学という構造と理解するのが自然です。

 外部のリソースを使いながら行政サービスや感染症対策を行うこと自体が問題というより、外部のリソースを使っているとユーザーからはデータのフローやサービス提供の実質的な主体が見えにくくなるという問題があります。神奈川県の行っている事業であれば県が主体ではあることは間違いありませんが、県ですべてを完結的に行っているわけではないので、どこまで基本的な枠組みを明らかにして理解を求めるのか、という課題があります。

 現状は、ウェブサイトでは県がLINEを使って提供するサービスとして説明されており、確認できる範囲だと、県の説明ページに共同研究であることや、データの利用についての具体的な説明は見当たらないです。別ページに用意されている「新型コロナ対策パーソナルサポート(行政)」個人情報保護方針や、情報公開請求しないと公開されない覚書等をよく読まないとわからない。やはりわかりにくいですね。よく理解して利用している県民はいるのでしょうか。

 デジタル技術の利用やそれに伴い収集が容易になる個人情報の利活用には、外部リソースの利用が含まれることは、こうした事例を待たなくとも明らかで、ここの部分の透明性の確保が必要です。契約内容や基本的なスキームが法人の利益にかかわるとして不開示とされないようにしなければならないでしょう。

 なお、外部委託先が保有していて県が取得していない情報は、県ととして保有していないとされ、情報公開請求の対象にもならず、公文書管理の対象にもなりません。情報公開請求の対象にならない情報は、本人開示請求の対象にもなりません。県が取得して初めてこれらの対象になるので、例えば県は保有せずに大学がデータを保有して共同研究として利用している場合は、県が取得をどこかの段階で行わないと、県の保有(管理下)にはならず、共同研究の一方の当事者としての監督が行われるにとどまります。これは、神奈川県に限らず自治体、国の行政機関でも同じです。(文責:三木由希子)

 


 

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