公費であるほど使途が不透明になる政治資金

<シリーズ 政治資金規正法はなぜ透明性を確保できないのか①>

 

国会議員の政治活動の資金源

 
 国会議員の政治活動の資金源は、大きく分けると以下のようなものがあります。

 ①個人からの寄付
 ②政治団体からの寄付
 ③企業・団体からの寄付(政党本部・支部、政治資金団体のみ)
 ④党費(政党本部・支部のみ)
 ⑤政治資金パーティー収入
 ⑥その他の事業収入
 ⑦交付金(政党本部・支部のみ)
 ⑧立法事務費(政党・会派のみ)
 ⑨調査研究広報滞在費(旧文書通信交通滞在費)

 上記のうち⑦から⑨が公費です。⑦の「交付金」とは政党交付金で、国から政党本部に支払われ、本部から支部に交付金として渡るものです。本部と本部から交付金を受け取った支部は、毎年、都道府県選挙管理委員会を通じて総務省に 政党交付金使途等報告書の提出が義務付けられています。これは、政治資金収支報告書とは別に提出されるものです。

 ⑧の「立法事務費」は国会議員一人当たり毎月65万円分を政党・会派に支給するもので、どこでどのように管理され、何に使われているかはまったく分かりません。「立法活動費」という名称ですが、立法活動に使われているのかについて誰も確認できないものです。

 ⑨の「調査研究広報滞在費」は国会議員一人当たり毎月100万円支給されるもので、これも使途の報告が不要なものです。国会議員の事務所で、政治団体の資金とは別に管理されているものです (なお、日本維新の会は自主的に使途の公開を行っています)。

 つまり、使途の分かる公費は、3つのうち、たった一つ。交付金だけです。政治資金の使途は、公費の方が不透明になる仕組みになっています。

 

公費であるほど使途が不透明な今のシステム

 
 ところで、政治資金収支報告書で報告されている政治資金とは、実は①~⑦までです。政党・政党支部は、公費である政党交付金のみの報告書して政党交付金使途等報告書を提出し、政党交付金を含むすべての政治資金をまとめた政治資金収支報告書も提出しています。

 政治資金規正法は、国会議員関係政治団体に対して1万円超の支出は人件費を除き、明細を収支報告書に記載し、領収書の提出を義務付けています。それに加えて、政治団体が保管している1万円に下の少額領収書について開示請求ができる仕組みを設けています。

 国会議員関係政治団体とは、国会議員が代表者の政治団体か、寄付控除制度の対象となる特定の公職の候補者(国会議員に限る)を推薦・支持することを本来の目的とする政治団体です。この中に、政党交付金を受け取っている政党支部も含まれます。国会議員関係政治団体である政党支部の政治資金収支報告書と、政党交付金使途等報告書の記載内容の関係を整理すると、以下のようになります。

 

  政党交付金使途等報告書 政治資金収支報告書(国会議員関係政治団体)
収入 支部政党交付金 支部政党交付金収入を含むすべての収入
支出 政党交付金、支部基金による支出 左記を含むすべての支出
個別支出の記載 1件5万円以上の経常経費(人件費と光熱費を除く)と政治活動費 1件1万円超の経常経費(人件費を除く)と政治活動費
領収書の提出 個別の支出を記載した1件5万円以上の支出の領収書 個別の支出を記載した1件1万円超の支出の領収書。1万円以下の領収書は少額領収書開示制度で開示する
繰越金 支部基金の残高 翌年への繰越し額(支部基金の残高を含む)

 

 
 国会議員関係政治団体である政党支部の場合、政治資金収支報告書では1万円超の使途は個別に記載し、1円以上の領収書の開示が求められますが、政党交付金の場合は5万円以上から明らかにすればよいという仕組みです。

 前述の通り、政党支部の政治資金には政党交付金も含まれていますが、収支報告書だとわかる使途が、政党交付金使途等報告書だとわからないわけです。本来なら、公費である政党交付金の使途の公開の徹底が必要なはずですが、制度としては政治資金収支報告書の方が公開度が高いという逆転現象が起こっています。

 

公費と公費以外の区別がつかない使途の報告

 
 ここで疑問に思われるかもしれません。政治資金収支報告書の方を見れば使途が分かるから、不透明ではないのではないかということです。

 確かに、政治資金収支報告書と政党交付金使途等報告書の両方を見ればよいとも言えるかもしれません。しかし、政治資金収支報告書は、政党交付金とその他の政治資金 による個別の支出を区別して報告していません。また、使途等報告書は5万円以上からのみ個別支出の記載があるので、収支報告書に記載されている1万円超から5万円未満の支出については、どれが政党交付金に該当する支出か区別ができません。少額領収書の開示を求めても同じことが起こります。

 つまるところ、政治資金収支報告書で使途の公開度を高くしても、政党交付金の使途の透明性が高まるわけではないわけです。

 政党交付金使途等報告書を提出している政党支部を確認すると、国政の選挙区に合わせた支部が中心で、加えて各都道府県単位にある政党支部連合会が主なものです。「支部連合会」は、特定の公職の候補者(国会議員)を支持することを目的にしていないので国会議員関係政治団体となっていませんが、それに準じて扱ってよい資金規模です。この際、政党交付金等使途報告書は、国会議員関係政治団体が義務づけられているものと同じ使途の公開をするよう、政党助成法を改正すべきではないでしょうか。

 

閲覧しかできない政党交付金使途等報告書の壁

 
 そして、政党交付金についてはもう一つ大きな問題があります。それは、政党交付金使途等報告書は総務省のウェブサイトに掲載されていますが、閲覧しかできず、ダウンロードもプリントアウトもできないフォーマットであるということです。理由は、政党助成法は、使途等報告書について閲覧のみ規定しており、「閲覧」には写しの交付が含まれないと解釈されているからです。

 その結果、政党交付金使途等報告書は画面で閲覧するか、情報公開請求して写しをもらうかいずれかになり、政治資金収支報告書と照らし合わせて分析するには、大きなストレスと負担がかかる仕組みになっているのです。

 では、この「閲覧」しかできない仕組みは変えられないのか、という疑問が残るわけです。

 実は政治資金収支報告書も、2007年に政治資金規正法が改正されるまでは同じ状況でした。法改正したことで、総務省と各都道府県は収支報告書をインターネット公表することができるようになりました。 ただし、収支報告書は総務省と都道府県選挙管理委員会が管理するものがあり、各都道府県がそれぞれでインターネット公表するかどうかを判断するため、いまだに新潟県はインターネット公表をしていません。しかし、収支報告書のインターネット公表が進み、格段にアクセスはよくなりました。

 政党交付金使途等報告書は、総務省がすでにダウンロードやプリントアウトのできないフォーマットであるものの、PDFファイルにしています。政党助成法を改正して閲覧だけでなく、インターネットの公表をできるようにすればすぐにでも公表できるわけですが、法改正がされないまま今に至っています。

 「閲覧」しかできない法規定を改正しないと、後述しますが収支についてデータで解析したり、政治資金収支報告書のデータと突き合わせたりするといった、デジタル化の議論もできません。本気で政治資金の透明性を確保するつもりがあるのか、政治の意思が試される問題です。

 

公費を支出する目的の逸脱がないかをどう確認するのか?

 
 そしてもう一つ政治の意思が試されるのが、政党交付金以外の公費の使途です。公費が投入されている場合、そのリソースをどう使おうが国会議員や政党の自由といってよいのかということが、議論すべき問題です。

 使途の明細の必要のない立法事務費と調査研究広報滞在費とで合わせて、国会議員一人当たり165万円が支払われているだけではありません。公設秘書を3名雇用することができ、秘書の給与も国から支給されています。いずれも公費なので、公費を充てている目的は何かによって、そのリソースを振り分けることのできる範囲は決まってくるはずです。

 そもそも、それぞれの目的は何でしょうか。

 立法事務費は、「国会議員の立法に関する調査研究の推進に資するため必要な経費の一部」であるとされています(国会における各会派に対する立法事務費の交付に関する法律)。調査研究広報滞在費は、国政に関する調査研究、広報、国民との交流、滞在等の議員活動を行うために支給するものと国会法で規定しています。そして、公設秘書は国家公務員特別職で、政策秘書は「主として議員の政策立案及び立法活動を補佐」し、公設第一・第二秘書は議員の「職務遂行を補佐」するものと国会法で規定されています。

 この範囲を逸脱していないかをどのように担保し、確認できるようにするのか。そこが問題で、立法事務費と調査研究広報滞在費についてはその使途の公開は不可避でないかと考えます。公設秘書についても、その活動がどこまで許容されるのかが本来は議論されるべきです。

 公費であるほど使途が不透明になる。公費を支出する目的に照らして妥当な状態か検証ができないという状態のままでは、政治資金をめぐる不透明さの解消としては極めて不十分。何を透明性として議論しているのかという政治の認識が問われます。

 

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