[特集:デジタル関連法案④] なくなるもう一つの原則-センシティブ情報(要配慮個人情報)が原則収集禁止ではなくなります

自治体は適正取得義務があるのが当たり前

 自治体条例が定める適正取得義務ですが、個人情報保護委員会の「個人情報保護条例に係る実態調査結果<資料編>」(2020年5月)では、都道府県の80.9%(38団体)が条例で規定しているなっています。

 しかし、各都道府県の条例で確認すると、適正取得義務の規定を設けている都道府県は93.6%(44団体)(参考資料を参照)でしたので、このデータも誤り。適正取得義務を定めていないのは、滋賀県、岡山県、鹿児島県でした。

 また、同じ調査結果では市町村では54.6%で適正取得義務の規定があるとなっていますが、感覚的にはどんなに少なく見ても80%以上の自治体で規定を設けているのではないかと思います。

 なお、行政機関個人情報保護法は過去に何度か大きな改正がされていますが、現在の形となったる改正は2003年に行われました。民間を対象にした個人情報保護法案と一緒に国会で審議されましたが、民間対象には適正取得義務が入っているのに、行政機関を対象にした法案にないことが国会の質疑で問われていました。答弁は以下のとおりですが、つまるところ適正に個人情報を取得するのは行政機関や公務員にとっては当たり前、規定する必要がないということですね。

 今回は、民間を対象とする個人情報保護法には適正取得義務があり、自治体条例にもあるので、一元化するに際して、国だけ規定がないと悪目立ちするし、自治体条例からの明らかな切り下げなんて批判があるかもしれないので、仕方がないから入れたという感じでしょうか。

【衆議院個人情報の保護に関する特別委員会 平成15年4月25日】
〇片山虎之介国務大臣 今春名委員から三点言われまして、適正取得の規定がないと言うけれども、適正に行政機関や公務員が情報を取得するのは当たり前の話で、日本国憲法でも国家公務員法でも全部書かれているわけでありますから、改めて今回規定しなかったわけであります。
 それから、センシティブ情報ということをよく言われますけれども、すべての情報について、我々は、必要な範囲で必要な限度だけに使え、目的外利用や提供は理由がある場合、こういうことでございます。

 

センシティブ情報(要配慮個人情報)が原則収集禁止ではなくなります

 自治体条例では、センシティブ情報(要配慮個人情報)について、通常の収集制限に加えて特に収集を原則禁止しています。もちろん例外的に収集できる場合もありますが、センシティブ情報(要配慮個人情報)を収集する必要があるというだけでなく、そうするやむを得ない理由があることが基本となります。

 なぜなら、センシティブ情報(要配慮個人情報)とは、思想・信条、身分、人種、社会的身分、病歴、犯歴、そのほか社会的差別の原因になる個人情報を指し、こうした情報はそれを知ることで差別や偏見の原因になりえるからです。だから、特にやむを得ない場合に限定して収集するという制限を設けているわけです。

 一方、行政機関個人情報保護法は、要配慮個人情報という言葉は定義していますが、収集に当たっての制限は特に設けていません。他の個人情報と同じように収集ができます。

 個人情報ファイルごとに作成・公表されている人情報ファイル簿に、要配慮個人情報が含まれるときは含まれると記録することにはなっていますので、どのファイルに含まれいてるのかだけはわかります(なお、犯罪捜査等治安維持活動、安全保障分野、外交分野で作成される個人情報ファイルについては、個人情報ファイル簿の作成・公表の適用除外となっています)。

 改正個人情報保護法案は、行政機関個人情報保護法の規定にあわせているので、自治体はセンシティブ情報(要配慮個人情報)について、原則収集禁止ではなくなります。

 大きな変更だと思うのですが、個人情報保護法改正を検討した「個人情報保護制度の見直しに関するタスクフォース」による「個人情報保護制度の見直しに関する最終報告」(2020年12月)だと、「行政機関個人情報保護法上個人情報を保有できる範囲と、上記のような取得制限規定(注:センシティブ情報の原則収集禁止)がある条例上(要配慮個人情報等の)個人情報を保有できる場合は、おおむね同様であると考えられる」としています。

 これまでと同じで変わらない、と言いたいようです。原則がなくなるって結構大きい変更だと思っていたのですが、ここでも国は原則なんて関係ないね、という立場のようです。

 現在、この収集制限規定を設けているのは、個人情報保護委員会の「個人情報保護条例に係る実態調査結果<資料編>」(2020年5月)によるとは、都道府県の95.7%。この数字はあっていました。収集制限を規定していないのは、岡山県と鹿児島県。この二つの県は、本人からの直接収集の原則、適正取得義務、センシティブ情報の原則収集禁止のいずれの規定もなく、国と同レベルの規制なので、国から見れば「優等生」ですね。(文責:三木由希子)
 


 

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