[特集:デジタル関連法案③] 自治体条例が定める2つの原則がなくなります

個人情報の収集段階での本人からの直接収集原則がなくなります

 自治体の個人情報保護条例では、原則として個人情報は本人から直接収集しなければならない、と定めています。

 一方、行政機関個人情報保護法、独立行政法人等個人情報保護法は、法令の所掌事務のために利用目的を明らかにし、それに必要な限度で個人情報を収集するという制限規定はありますが(自治体条例にも同様の規定があります)、本人からの直接収集を原則としていません。個人情報保護法改正法案では、行政機関個人情報保護法の規定をそのまま自治体にも適用することになるので、このままだと自治体で原則としている本人からの直接収集がなくなります。

 個人情報保護委員会の「個人情報保護条例に係る実態調査結果<資料編>」(2020年5月)によると、都道府県で本人からの直接収集原則規定を設けているのは89.4%(42団体)としていますが、これは誤り資料参照)。2000年代半ばの個人情報保護条例改正については、警察を実施機関に加える改正であったため都道府県分をかなり丁寧にフォローしていたので、調査結果に大変違和感がありましたので都道府県条例をすべて確認した結果、規定がなかったのは岡山県と鹿児島県だけで、95.7%(45団体)が本人からの直接収集を原則としていました。
  
 なお、同調査によると、本人からの直接収集原則があるのは市区町村で60.7%となっています。しかし、都道府県の調査結果のデータが事実を反映しておらず、市区町村も規定を有しているところが実際にはもっと多いのではないかと思われます。感覚的ではありますが、どんなに少なく見ても80%の市区町村には同種の規定があるのではないかと思います。

 

本人からの直接収集原則がなくなるとどうなるのか

 自治体の個人情報保護条例は、個人情報は本人からの直接収集が原則、本人以外からの収集は例外的な場合に限っているので、本人外収集の例外に当たるかどうかを判断することを求め、意思決定をすることになります。

 一方、現行の行政機関個人情報保護法は本人からの直接収集が原則ではないので、適法に収集できる範囲の個人情報であれば、収集方法について制約がないという仕組みになっています。これが、自治体にも適用されるようになります。

 原則があれば例外に当たるかどうかを判断する、例外に当たるかどうかが議論になるので、不適法な本人外収集に当たるかどうかでも争点になるのですが、原則がなければこうした議論・争点は生じません。

 この自治体の定める本人からの直接収集原則について、個人情報保護法改正を検討した「個人情報保護制度の見直しに関するタスクフォース」による「個人情報保護制度の見直しに関する最終報告」(2020年12月)では、「本人以外からの取得を全面的に禁止する例は無く、法令・条例に定める所掌事務の遂行に必要な場合等を例外とするものであるため、その趣旨は、現行の行個法第3条及び今般改正により公的部門にも追加することとなる個人情報の不適正取得の禁止に含まれると考えられる」と注釈で言及しており、これまでと変わらないという理解のようです。

 法制度として原則を定めるということは結構重要な点だと思うのですが、今の政府は原則はあってもなくても同じという考え方なのでしょうか。原則なんては個人情報保護法制に必要ないというなら、ある意味「潔い」(皮肉です)。

 なお、注釈では「不適正取得の禁止」を法に追加と言及していましたが、単に行政機関個人情報保護法にはこの規定がないだけで、自治体の個人情報保護条例では適正取得義務を規定しているのが一般的です。つまり、自治体は、適正取得義務に加えて本人からの直接収集を原則としているわけで、国と自治体は異なる原則に立脚した制度設計になっていると本当は理解すべきです。(文責:三木由希子)

 


 

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