2023年版 予算公開性の調査結果概要

世界125か国を対象に実施された、財政公開性調査(Open Budget Survey; OBS)の2023年版調査結果が発表されました。日本は、2017年調査から対象となっていますが、OBSは2006年から実施されています。実施主体は、ワシントンDCにある国際NGOのInternational Budget Partnership(IBP)で、日本では情報公開クリアリングハウスが調査を担当しています。

OBSは予算編成過程、予算執行過程、監査について、主要な財政・予算文書の作成状況、公表状況、文書に含まれる項目・内容などについて、公的な文書やデータに基づいて評価を行い、スコアリングしていく調査です。調査項目は、OECD、IMFなどにより推奨されている国際基準などをもとにIBSが作成したもので、100項目以上の項目を評価していくものです。

事前予算説明書、予算案、予算書、市民予算書、予算執行状況、年央評価、決算、監査の8つの主要文書に対して財政透明性指標が設定され、文書の作成の有無、作成タイミング、公表の有無、公表のタイミング、公表データが機械判読可能なデータか否か、文書に含まれているべき情報、市民に分かりやすい文書の作成の有無などからなります。

日本は、前回調査では財政透明性指標のスコアが61点、今回は63点と若干改善はしていますが、これは前回調査時点では、新型コロナ禍により通常は作成されていた文書が作成されなかったものが、通常の予算編成に戻り作成されるようになったためで、実質的な変化を示すものではありません。

なお、調査結果を確定する前のプロセスでは、財務省が調査回答案について確認し、コメントをつけています。調査担当者の評価と異なるものについては、調査担当者及びIBPとの間で協議・調整して最終回答を作成しています。一連のやり取りは、日本に関する調査報告書本体の中に記録されています。

IBPによる公表情報は、以下からアクセスできます。
全体 https://www.internationalbudget.org/open-budget-survey/
日本調査結果概要 https://bit.ly/3RJmSod

日本の調査結果概要を情報公開クリアリングハウスで翻訳したものを掲載しています。
以下の内容と同じものをPDFで見る。


 

予算公開性調査2023 日本調査結果概要

Open Budget Survey 2023

 

調査について

政府予算は、どのような税金を課し、どのようなサービスを提供し、どれだけの債務を負うかを決めるもので、社会のすべての人に対し重大な影響があります。政府が、予算決定に対して市民が参加するために必要な情報と意味ある窓口を提供している場合は、公的資金が公共の利益のために確実に使われるでしょう。
予算公開度調査(Open Budget Survey; OBS)は、予算過程における中央政府の予算情報の公開、国の予算過程への公式な市民の参加機会、立法府や会計検査院のような予算監視機関の役割を評価するものです。国際的に認められた基準を用い、比較可能な事実に基づく手法によって実施される、世界で唯一の独立した調査です。
この調査は、各国の市民社会が政府とともに報告と公的資金の使われ方について評価し、議論するために役立つものです。第9回目の2023年調査は、125か国が対象となっています。

OBSの調査手法、2023年調査のグローバル・リポート、調査対象地域の調査結果、データ探索などのさらなる情報は、https://www.internationalbudget.org/open-budget-surveyにアクセスしてください。

透明性

OBSのこのパートは、中央政府の歳入歳出に関する情報の公開の状況を評価しています。8つの主要な予算関連文書が、オンラインで入手可能か、公開の適時性、包括性を109の均等加重の指標を用い、0から100のスコアで評価しています。透明性スコアが61以上だと、その国は、公共的な議論に資する十分な予算関連の資料が公開され、一定の知識のもとで議論ができると考えられます。
日本は、透明性指数は63/100でした。

 

OBS2023では何が変わったか?

日本は予算情報について以下の点で情報公開が向上しました。

  • 事前予算説明書(Pre-Budget Statement)のオンラインでの公表

 

改善すべき点

日本は、財政の透明性を向上させるために以下の方策を優先的に実施すべきです。

  • 年央見直しを作成し適時にオンラインで公表する。
  • 事前予算説明書をマクロ経済予測、歳入、債務に関する情報を含む包括的なものに改善し、歳出総額の見積もりに関する情報を拡充する

 

透明性指数の近隣国等との比較

日本の透明性指数の変遷


 

日本の予算文書の情報公開の状況

文書 2017 2019 2021 2023
事前予算説明書Pre-Budget Proposal 公開 公開 未作成 公開
予算案Executive’s Budget Proposal 公開 公開 公開 公開
予算書Enacted Budget 公開 公開 公開 公開
市民予算書Citizen Budget 公開 公開 公開 公開
年度内報告In-Year Reports 公開 公開 公開 公開
年央見直しMid-Year Review 未作成 未作成 未作成 未作成
決算書Year-end Report 公開 公開 公開 公開
監査報告Audit Report 公開 公開 公開 公開

 
 

日本政府が一般に情報公開している主要な予算文書の内容の包括的性

主要予算文書 文書の目的・内容 評価年度 スコア
事前予算説明書Pre-Budget Proposal 予算案に先立ち財政政策に関する政府経済予測、見込み歳入・支出・債務の概要という広範な要素を明らかにするもの 2022 22
予算案Executive’s Budget Proposal 政府から国会の承認のために提出されるもので、歳入源の明細、各行政機関への配分、提案した政策の変更、その他の国の財政状況の理解のために重要な情報 2022 64
予算書Enacted Budget 国会で承認された予算 2022 100
市民予算書Citizen Budget 政府の予算案及び予算について技術的でなく、市民に主要な情報を提供するために作られたもの 2022 67
年度内報告In-Year Reports 実際の歳入、支出、異なる間隔で負った債務を含む情報で、四半期ないし毎月発行されるもの 2022 78
年央見直しMid-Year Review 予算年度中間での予算実行の包括的な更新を含み、経済予測の見直しと予算結果の見通しの更新を含む 2022
決算書Year-end Report 年度末の政府に収支の状況を表したもので、財政政策目標の達成具合の評価を含むことが望ましい 2021 74
監査報告Audit Report 最高監査機関が発行するもので、政府の年度末収支の妥当性と完全性を検査した文書 2021 95

市民参加

OBSでは、予算過程の各段階で意味ある公式の市民参加の機会を提供しているかを評価しています。GIFT(the Global Initiative for Fiscal Transparency; 財政の透明性のためのグローバル・イニシアティブ)の策定した予算政策における市民参加原則に沿って、18の均等加重された指標を用いて、中央政府の行政府、立法府、最高監査機関(SAI)の運用を調査し、各国を0から100のスコアで評価しています。
日本の市民参加スコアは26/100でした。

他国と比較した日本の市民参加指数


世界中の革新的な市民参加の実践についてのさらなる情報は、以下からご覧ください。
 
 

予算過程における市民参加の機会の範囲

予算過程 実施者 指数
予算編成 行政府 27
予算決定 立法府 11
予算執行 行政府 42
監査 最高監査機関 33

指数はいずれも100がフルスコア

 

改善すべき点

財務省は予算編成過程で審議会を設け、予算執行段階で電子的な情報提供窓口を設けている。しかし、予算過程の市民参加をより強化するために、以下の方策も優先的に行うべきです。

  • 予算編成過程中に、参加を希望する市民社会組織や一般市民が関与するための仕組みを拡充する。
  • 脆弱で過小評価されているコミュニティが、直接的、もしくは市民社会組織を通じて積極的に関与する

国会は、予算の承認に関連した公聴会を実施しているが、以下の方策も優先的に行うべきです。

  • 予算案の承認に先立ち、予算案に関する公聴会において、一般市民または市民社会組織が意見を述べることを認める。
  • 会計検査院報告に関する公聴会において、一般市民または市民社会組織が意見を述べることを認める。

会計検査院は、会計検査の調査に関して一般市民が貢献できる仕組みを設けています。予算過程の市民参加を改善するために、以下の方策を優先的に行うべきです。

  • 会計検査プログラムの策定に市民が協力できる公式の仕組みを設ける。

予算監視

OBSは、予算過程における立法府と最高監査機関(SAIs)が果たす役割と、監視活動の範囲を調査し、18の均等加重指標に基づき、各国を0から100のスコアで評価しています。加えて、この調査では独立した財政機関に関する情報を補足的に収集しています。
日本の国会と会計検査院はともに、予算過程で限定的な監視活動を行っているにとどまり、双方の監視活動を複合的に評価したスコアは59/100です。それぞれの監視活動の範囲の評価は以下の通りです。

国会による監視 50
会計検査院による監視 78

 

改善すべき点

国会は予算編成の計画段階と執行段階で限定的な監視しか行っていません。監視機能を向上させるために、以下の方策を優先的に行うべきです。

  • 国会は、政府予算案が国会に提出される前に、予算政策について審議を行い、時期予算に対する勧告の行うべきである。
  • 国会の委員会は政府予算案を調査し、分析結果の報告書をオンラインで公表すべきである。
  • 国会の委員会は、歳出入の年度内執行状況を調査し、所見とともに報告書をオンラインで公表すべきである。
  • 国会の委員会は、会計検査報告書を調査し、所見とともに報告書をオンラインで公表すべきである。

会計検査院の独立性を強化し、会計監査を改善するため、以下の方策が推奨されます。

  • 監査プロセスの独立した組織による点検を実施する。

独立した財政機関の設置の実践の発現

日本は、独立した財政機関(IFI)を設置していません。独立した財政機関とは、独立した党派性のない機関であり、価値ある情報を予算過程で行政府や議会に対して提供するものとして、徐々に認識されるようになってきています。
※この機関に関する指標は、OBSのスコアに反映されていません。

調査の方法

  • OBS2023で評価の対象になったのは、2022年12月31日までに公表された文書、成果、活動、進捗です。
  • この調査は、各国の独立した予算専門家によって回答された調査項目に基づいています
    日本の担当:三木由希子
  • 調査を更に妥当なものにするために、各国の調査回答案は、匿名の独立した専門家によってレビューもされています

【参考】
予算編成過程、決算、監査に関する透明性

日本 世界平均 OECD平均
透明性指数 63 45 67
市民参加指数 26 15 24
監査指数(国会) 50 45
監査指数(会計検査院) 78 62

(フルスコアはいずれも100)