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[News] 新型コロナ全国調査-LINE社と厚労省はどのような協定を締結したのか

 
 LINEのアカウントをお持ちのみなさんのもとには、新型コロナの調査回答依頼がLINE社から届いたのではないかと思います。筆者の個人アカウントあてにも届きました。これは、LINE社と厚労省の間で「協定」が締結されことを受けてのものです。

 LINE社と厚生労働省の間ではどのような協定が締結され、すでに実施された調査情報はどのように扱われるのか。両者の間の協定書はLINE社からの了解が得られたとのことで、厚労省から資料要求で国会議員事務所に提供されたため、入手しました。また、筆者の個人アカウントあてにLINE社から調査回答依頼が届いていましたので、LINEあてに質問を送り、その回答も戻ってきました。

 実施された調査について確認できたことを端的にまとめると、以下のようになります。

  1. LINE社の実施するもので厚労省の調査ではない。ただし、厚労省(クラスター対策班)のニーズに沿って行っていると思われること
  2. 利用目的は、「新型コロナウイルス感染症に関する対応策の検討・実施及びこれらに関連する情報提供」
  3. 調査の回答は統計化されて厚労省、LINE社から公開されることがある
  4. 調査回答内容はそのまま厚労省に提供され、回答者はそれに同意したことになる
  5. LINE社はユーザーIDを特定して調査回答内容を保有しているが、厚労省に提供される情報にはユーザー情報は含まれない
  6. 新型コロナ対策が収束するまでは保有する
  7. 厚労省と事前協議し、ユーザーに公表したうえで第三者に提供することができる

 具体的に見ていくと次のようになります。

 協定では、LINEの「サービス等利用者の健康状態等に関する情報のうち、クラスター対策に資するもの」を「健康等情報」として、LINE社の責任と判断において「取得」するとしています。情報の取得は、「新型コロナウイルス感染症に関する対応策の検討・実施及びこれらに関連する情報提供の目的にのみ利用される」こと、「厚生労働省に健康等情報を提供する」ことについて同意を得た上で行うとされています。

 何を「健康等情報」として取得するかについては、厚生労働省に意見を求めることができるともあります。実施した調査などは、実質的には厚労省(実質はクラスター対策班)のニーズを反映しているものと思われます。また、協定では「健康等情報」として何を取得するかという特定はされていません。今後も厚労省側のニーズにそって、調査等によりユーザーからの随時情報を取得・収集・提供ということを繰り返すことになるのではないかと思われます。

 取得する健康等情報は、①個人情報保護法その他の法令を遵守したものであること、②厚労省の要請や指示に基づいて収集・提供していると利用者が誤認しないとする具体的なおそれのある方法・態様で収集されたものではないこと、などをデータの正当性の条件としています。

 ただ、LINEからの第1回調査は、「厚労省の新型コロナ対策に協力するため」にLINE社が実施していると書かれていますが、厚労省のロゴのみが入っていたので少なくない人が厚労省の調査だと受け止めたようです。第2回の調査では厚労省とLINEのロゴが並べられる形に変更されたのは、そうした「誤認」が少なからずあったからではないかと思われます、

 回答を送信する際の画面で、回答内容についてLINE社が「厚労省からの依頼に基づく新型コロナウイルスに関する対応策の検討・実施及びこれらに関連する当社からの情報提供のために利用」することに同意し、かつこの目的内で厚労省に提供することに同意したことになっています。第1回の最初の画面では、「個人が識別できない形で統計化した上で、公開されることがあ」るとしていますが、調査内容は①統計化して厚労省やLINE社が公開することがあり、②調査回答内容のデータはそのまま厚労省に提供するという扱いになります。

 回答はLINEのユーザーIDと紐づいて管理されていると思われますが(LINE社は質問に対して否定しなかった)、調査項目以外に追加で提供する情報は調査に関してはないとLINE社は回答しています。ただし、個人情報保護法の規定では公衆衛生上の必要性などから、個人情報の第三者提供を本人同意なしで行なう規定があり、これを適用したユーザー情報の提供も理論的には可能です。

 また、LINE社は複数回の調査実施を予定しており、その都度ユーザーごとにデータが蓄積されできる状態と思われます。調査項目以外に追加で出している情報はないとの回答がLINE社からありましたが、調査用の固有番号などを回答ごとに附番した状態で厚労省にデータが提供されていると、同一人物からの回答を追跡して解析ができるデータとなります。このようなデータの提供をしているのか否かは、今回は確認できませんでした。

 さらに、健康等情報や取得した情報をもとにしたデータについては、厚労省との事前協議しかつそのことを公表したうえで、第三者に提供することができることとしています。今後、研究目的などでの利用を想定しているものと思われます。

 調査への回答など取得した健康等情報は、「取得した情報は本目的における分析・調査の終了後、速やかに破棄され」るとされています。破棄時期は、LINE社によると新型コロナ対策が収束するまでということなのです。そもそも、どのような状態になったら収束となるのか自体が不明なので、一定期間、場合によっては長期間保存されるようです。協定書とLINE社への質問でここまでわかりましたが、換言すれば厚労省やLINE社から公表されている情報だけでは基本的なことが理解できない(しにくい)ことがそもそも問題かと思います。

 また、調査回答は約2450万人と全ユーザーの3割弱とそれなりの数に上っていますが、新型コロナの問題に何らかの理由で関心のある人が多く回答する傾向にあると思われるので、一定のバイアスが調査結果のデータには存在します。このようデータを具体的に何に使うのか、政策判断や状況判断のどういう場面で使われているのかを明らかにすることは必要です。新型コロナ対策として必要、良いことだからというだけだと単なる思考停止になります。こういう状況だからこそ、実施段階で徹底して透明性の確保と説明責任の果たすことが重要です。

 なお、情報公開クリアリングハウスは4月1日付で厚労省などに「新型コロナウイルス感染症の拡大防止に関する統計データ等の提供について(要請)」に関する質問を出しています。回答するつもりがあるとは聞いていますが、現時点で回答はありません。

※メール版情報公開DIGEST第53号から一部編集して掲載しています。

 

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