「新型コロナウイルス感染症の拡大防止に関する統計データ等の提供について(要請)」に関する質問

 
 2020年3月31日、厚労省結核感染症課他4課室の連名で、新型コロナ対策でプラットフォーム事業者・移動通信事業者等に対して位置情報等の統計データ提供協定の要請が発表されました。

 統計データとされており法令の定める「個人情報」ではないということですが、将来的な個人情報の提供を含みうる要請であり、また、要請文からは具体的な要請しているデータの内容や頻度などがわかりません。すでにLINE社とは協定が締結され、LINEがユーザーに対して第1回「新型コロナ対策のための全国調査」を実施しています。LINE社の発表によると、調査の回答は「新型コロナウイルス感染状況の把握や感染拡大防止のための有効な対策を検討するために活用され」るとし、この用途以外での調査結果の利用はないとされています。同時にと回答データは統計処理され個人が特定されないともしていますが、用途目的は統計処理に限定されているとは読めないものになっています。

 このような情報の利用に必ずしも全面的に反対するものではありませんが、完全な透明性と説明責任が果たされる枠組みを示したうえで実施すべきことであり、このような情報が十分に提供されていない状況には大いに問題があると考えています。そこで、以下の質問状を関係行政機関あてに出しました。また、これとは別にLINE社に対して質問のメールも送ってあります。


2020年4月1日

内閣官房IT総合戦略室 御中
内閣官房新型コロナウイルス感染症対策推進室 御中
総務省総合通信基盤局総務課 御中
厚生労働省健康局結核感染症課 御中
経済産業省商務情報政策局情報経済課 御中
個人情報保護委員会事務局 御中

 

「新型コロナウイルス感染症の拡大防止に関する
統計データ等の提供について(要請)」に関する質問

 

特定非営利活動法人情報公開クリアリングハウス
理事長 三木 由希子

 
 当法人は、公的機関における市民の知る権利の確立を目的に活動する特定非営利活動法人です。

 2020年3月31日付で「新型コロナウイルス感染症の拡大防止に関する統計データ等の提供の要請について」が、同27日の「協定締結の呼びかけ」に続いて発表されました。新型コロナウイルス感染症に限らず公衆衛生上の重要な局面において、統計的データを含めて様々なデータが人々を守り、適切な政策判断・決定及び科学的知見の基礎となり得ることについては、理解をしています。一方で、公衆衛生上の重要局面であることが、データの収集・利用のすべてを正当化するわけではないこともの踏まえる必要があります。

 今回政府は、新型コロナ対策のため、プラットフォーム事業者・移動通信事業者等に対し、地域の人流把握やクラスター早期発見当の感染拡大防止に資するデータとして、ユーザーの移動やサービス利用履歴を統計的に集計・解析したデータの提供を受け、活用するため、統計データ等の提供を各事業者に呼びかけています。提供されるデータの中には、検索履歴に関するデータが含まれるとの説明が総務大臣、内閣府特命担当大臣からされたとの報道もあります。

 すでにLINEと協定が締結されているとのことですが、2020年3月31日付の要請、同27日の呼びかけ及びLINE社による発表資料からは、どのようなデータがどのような目的のもとに提供・収集され、どのように利用されるのかなど、具体的なことが何もわかりません。当面、

 要請するデータは「法令上の個人情報に該当しない統計情報等のデータに限る」としていますが、具体的な情報項目や形式、内容が明らかでなければ、どのように「該当しない」としているのかも不明です。

 加えて、「今後必要となった場合には、データの提供を追加的に要請する可能性」もあるとされています。今後の個人情報の提供要請の可能性について、今回締結される協定の中でどのように扱われているのかなども不明です。各事業者と締結する協定は、あいまいなものでなく、提供されるデータの具体的な内容・項目・形式、提供目的、利用目的を明確にすべきであり、そのような協定が締結されているものと思われますが、協定そのものが公表情報として確認できない状態です。

 位置情報や検索履歴などの利用履歴の利用、今回LINE社が行っている調査などは統計データであったとしても、個人の移動情報、検索など何らかの利用履歴という極めて私的領域の極めてプライバシー性の高い情報の集積であることには変わりはなく、倫理的かつ人権的なデータ利用が必要であり、公益性との十分な比較衡量が必要です。また、今後、個人情報としての提供を含みうるのであれば、どのような手順・手続きで行われるのか、データによる一方的な個人に対する評価・選別をどのように防止するのかといった、アセスメントや監察・監督の方法など、将来的な枠組みを示しておく必要があると考えます。

 当法人は、統計データ等の提供・利用のすべてに反対するものではありませんが、こうしたことの実施は、完全な透明性が確保され、説明責任を果たす枠組みが示された上で行われるべきだと考えます。そこで、以下の点について質問いたします。個人情報保護委員会にも確認済みとのことなので、すでにこれらの点については協議・調整であると思われ、また、提供が始まる前に明らかにされるべき事項でありますので、可及的速やかにご回答ください。

【質問事項】

  1. 各事業者と締結した協定書をすべて公開する予定はありますか。今後、締結される協定書も同様です(以下の事項は、協定書に記載されているかもしれませんが、現段階で確認できませんので、質問します)
  2. 「プラットフォーム事業者。移動通信事業者等」と要請文にあるが、「等」には何が含まれるのか
  3. 「統計データ等」と要請文書にはあるが、「等」には何が含まれるのか
  4. 統計データ等の提供を受ける場合、どのような頻度と方法で提供を受けるか
  5. 協定書で確定しているデータの具体的な提供内容・項目・利用目的・共有範囲(要請文中に「当該部署」とされている範囲)は何か。確定していない場合は、どのような情報の提供について合意をしているのか
  6. 「個人情報」ではないと要請文にあるが、どのような加工がされていることによって個人情報ではないと判断されているのか
  7. 統計データ等が過去の時点の状況を示したものを、例えば24時間後に受けたとすると、どのようにそのデータが役立てるのか
  8. LINE社の発表情報によると、現在実施されている調査について、回答したデータは統計処理されて調査・分析後速やかに廃棄されるとしている一方で、「新型コロナウイルス感染状況の把握や感染拡大防止のための有効な対策を検討するために活用」としており、この用途ために利用するともしている。利用目的は、統計データとして処理されることに限定されていないと思われるが、どのような取り決めが調査回答の利用や管理について政府とLINE社間でなされているのか
  9. 要請文では、データは新型コロナウイルス感染症の拡大防止の担当部署における取組が終了次第、速やかに消去するとされているが、「クラスター対策班」、専門家会議構成員あるは現在協力している専門家が、後日、研究目的で各事業者から同データを取得し利用することに対して、何等か取り決めなどをしているのか
  10. 専門家会議は非公式会合を繰り返しているとされているが、その関係者は前述「当該部署」に含まれ、データの提供を受ける対象になるのか。提供を受ける場合、どのような身分、法的規律のもとにあるのか。
  11. 要請文では、「今後必要になった、データの提供を追加的に要請する可能性」もあるとされているが、いわゆる「個人情報」の提供を受けることを意味していると理解してよいか
  12. 「個人情報」の提供を求める場合、どのような項目・目的を想定しているのか
  13. 「個人情報」の提供を求める場合、どのような事前手続、倫理的・人権的観点からのアスメントを行い、データに基づく一方的なプロファイリング、偏見や差別に基づく判断を防止することになるのか
  14. 要請文によると、個人情報保護委員会との調整も了しているとあるが、どのような調整を行い、どのようなことが了とされているのか

以上