新型コロナが世界で猛威を振るう中、同じ事態にリーダーがどのような発信をしているかが比較されることがあります。ドイツのメルケル首相が3月18日に行ったテレビ演説は、明確なメッセージとリーダーシップを示すものとして評価されました。
一方、アメリカのトランプ大統領の記者会見は、誤情報が多すぎることと、党派対立をあおり、今年予定されている大統領選挙に露骨に利用しようとしているとして生中継を途中で中断したり、その後、生中継をやめるテレビ局が出ました。リーダーがこのような事態の中でどのような発信をするかによっては、人の命や社会機能を危険にさらすことにもなるし、人々を励ますものにもなるので、政治家の資質が出るというだけでは済まされない問題であります。
安倍首相は、2月29日、3月14日、3月28日、4月7日とこれまで4回記者会見を行っています。最初の会見は小中高校の一斉休校要請などを行ったことに対するもの、2回目は新型インフルエンザ特措法の改正を受けたもの、3月28日は感染爆発を防ぐために最大限の警戒を呼び掛け、経済対策について、4回目が緊急事態宣言を受けたものです。このうち、3月に行われた2回の会見の冒頭の首相発言部分をテキストマイニングしてみました。
以下の表は、2回の会見で安倍首相が使った言葉を比較したもの。テキストマイニングして初めて気づいたのが、3月28日の記者会見で冒頭の首相発言では一度も「検査」に言及しなかったということでした。28日は質問に答えて初めて検査に言及しているだけです。一方で、14日の会見では「自粛」や「イベント」に言及していない。
※今回は、User Localを利用しました
3月28日に自粛に言及していますが、該当するのは、東京都などが夜間・休日の外出自粛要請、イベントの自粛などを要請したことをのべた部分。その他は海外渡航の自粛、自粛疲れ、自粛による経済への影響として言及をしています。要は、首相としては「自粛」を自ら積極的に「お願い」をしているわけではないわけです。
また、3月28日にのみ使われている形容詞の「力強い」は経済再生支援として、「恐ろしい」は新型コロナを形容して、「新しい」は給付金制度のこと、「暗い」は「この聖火こそ、今、正に私たちが直面している長く暗いトンネルの出口へと人類を導く希望の灯火(ともしび)」というオリンピックの文脈で使っています。このオリンピックへの言及は最後の部分で、オリンピックを希望にがんばれという意味。
3月14日のみ使われている形容詞の「悔しい」は高校野球などのスポーツ選手の気持ちとして、「使いにくい」は財政措置に伴う制度への批判として、「高い」は緊張感をもって推移を見守ることを形容する言葉として、「厚い」は新型インフルエンザ特措法改正法案の早期成立に協力した与野党への感謝の文脈で出てきます。
両方に出てくる「厳しい」は、14日会見では高校野球の中止や一斉休校や就職内定者の置かれている状況の文脈で、28日は経済状況を表す形容詞として主に用いられています。
こうして比較していくと、リーダーの発するメッセージが、感染拡大防止よりも現在行っている対応に対する批判を回避することが前に出るものになっているとみることもできます。都市部を中心とした感染拡大という現実に対して、いったい何をしようとしているのか、何を指標にどう判断しようとしているのか。布マスクの件といい、非常時における政府の説明責任とリーダーは何を発信するのかが問われます。
※メール版情報公開DIGEST第53号より転載