[要望] 新型コロナウイルス感染症に関する情報公開と 記録の作成・保存についての要望

 
 政府は、新型コロナウイルス感染症への対応について、行政文書管理ガイドラインに定めのある「歴史的緊急事態」に該当すると閣議了解で決定しました。

 この決定を当法人としては歓迎していますが、一方で、「歴史的緊急事態」としたことによって、作成される記録の範囲が拡充するのか、何が通常と異なる対応になるのか具体的にはなってしません。例えば、新型コロナウイルス対応の会議として、対策本部、その前に行われている連絡会議、専門家会議がありますが、これらの会議については歴史的緊急事態に該当しなくとも、下図の通り議事の記録等の作成義務があります。

 また、首相の下に官房長官、関係閣僚、関係省庁幹部が集まって新型コロナ対応の実質的な協議等を行っている連絡会議は、小中高校一斉休校要請によってその存在が明らかになりましたが、明らかになるまでその会議の記録作成について予定されていなかったと思われます。連絡会議以外に対応に関連してどのような会議が行われているのかも、公式会議以外は不透明です。歴史的緊急事態としても、全体のプロセスが不透明だと、残すべき行政文書が残されているのか、作成されているのか判断できません。

 こうした懸念があることから、情報公開クリアリングハウスとして意見を3月13日付けで出しました。

新型コロナウイルス感染症に関する情報公開と記録の作成・保存についての要望(PDF)

 

新型コロナウイルス感染症に関する情報公開と記録の作成・保存についての要望

2020年3月13日

内閣総理大臣 安倍 晋三 様
内閣府特命担当大臣(公文書管理担当) 北村 誠吾 様
厚生労働大臣 加藤 勝信 様

特定非営利活動法人情報公開クリアリングハウス
理事長 三木 由希子

 当法人は、公的機関における市民の知る権利の確立を目的に活動する特定非営利活動法人です。

 新型コロナウイルス感染症への対策・対応が行われています。学校一斉休校要請をはじめ、社会生活に直接的に影響を与え、さらに新インフルエンザ対策特措法の改正がなされた場合、緊急事態条項の適用も想定されるなど、政府の対応・対策が一層、日常生活に対して介入的、制約的になる可能性も否定できません。感染症対策は、多くの人の協力・理解と負担の上に成り立つものであるとともに、感染症自体、人間が完全にコントロールすることのできない予測不可能な側面があります。現在の政府の対応・対策についての根拠、意思決定の透明性を確保することは、事後の検証だけではなく、今の対応を是正し、将来より妥当な判断を行うよう促すために不可欠です。

 3月10日に政府は、今回の感染症対応が、行政文書管理ガイドラインが定める歴史的緊急事態に該当すると閣議で了解しました。一定の前進があり、早急な関係記録の公開を要望しますが、公文書管理や情報公開の観点からさらなる具体的な対応が必要と考えます。また、新型コロナウイルス感染症対応で、政府の活動、意思決定過程、これらの前提となったデータや情報、その他の感染症に関するさまざまな情報・データは、整理をするにしても収束あるいはある程度落ち着いてからであるべきで、進行中の文書やデータの廃棄は、今後の新型の感染症対応や新型コロナウイルスに関する科学的知見の蓄積にたいして、極めて有害な行為であることも十分に認識されているべきです。そこで、以下の通り要望します。

1)「歴史的緊急事態」に該当すると判断されたということは、行政文書管理ガイドラインの移管基準となる、「政策単位での保存期間満了時の措置」のうち「国家・社会として記録を共有すべき歴史的に重要な政策事項であって、社会的な影響が大きく政府全体として対応し、その教訓が将来に活かされるような」ものに、該当すると判断されたものです。したがって、「特に重要な政策事項」としてガイドラインに掲げる改定を待たず、新型コロナウイルス感染症対応に関する行政文書について、通常廃棄するものであっても原則として移管対象となることを、各行政機関に周知し適切な対応がとられるようにしてください(例えば、「東日本大震災に関する行政文書ファイル等の扱いについて」(平成24年4月10日 内閣府大臣官房公文書管理課長通知)など)。

2)当法人の情報公開請求で確認したところによると、首相、官房長官、政務三役、首相補佐官・秘書官などの日々の活動や執務記録がまったく作成されず、日程も具体性に欠きかつ短期で廃棄されています。高い政治レベルの動向が記録されない政府運営が常態化しています。その中で、今後、非常事態宣言も見込み、かつ多くの人の日常生活、社会生活に影響を与える判断を政治的判断として行っていく、現に行っていることになります。このような状況の下で政治判断が行われていくこと自体、多くの問題をはらんでいます。大臣の日程表は1年未満の保存期間でよいとしていますが、歴史的緊急事態であるような場合は1年以上の保存になり得ることは、公文書管理委員会において説明されたところであります。通常1年未満の保存でよいとしている日程表のほか、日常的な連絡等についても、新型コロナウイルス対応に関しては、1年以上の保存期間であるべきで、そのことを周知徹底してください。

3)新型コロナウイルス対応を行っている業務所管課室等は、所管業務への対応に集中することが望ましいところですが、一方で日々発生するデータ、文書等についての整理や保全が適切に行われ、効果的に活用される必要もあります。また、特に複数の行政機関が関与し、クルーズ船対応のように地方支分部局も関与しているような案件では、記録が散在して存在して体系的にまとまった保存にならない可能性があります。そこで、行政文書の整理や保全について適切な対応が行われるよう、各行政機関の公文書管理監及び公文書監理室による必要な支援を行ってください。また、内閣府大臣官房公文書管理課、国立公文書館なども可能な支援や専門的知見の提供を行ってください。

4) 行政文書管理ガイドラインでは、歴史的緊急事態であるか否かに変わらず、国務大臣を構成員とする会議等については、「議事の記録」(ガイドラインで定義されている発言者名及び発言内容を含むもの)の作成が義務づけられています。また、審議会等又は懇談会等についても議事の記録を義務づけており、対策本部や新型コロナウイルス感染症対策専門家会議、その他ガイドラインの定める会議については、歴史的緊急事態に限らず議事の記録の作成が義務とされています。このことについて、通常時から議事の記録の作成が義務づけられている範囲を明確に示して周知し、確実に議事の記録の作成ができるように必要な記録として会議の録音を行うよう求めてください。

5)歴史的緊急事態について、「政府全体として対応する会議その他の会合」について、「会議等の性格に応じて記録を作成するものとする」としています。この「会議等」については、「政策の決定又は了解を行う会議等」と「政策の決定又は了解を行わない会議等」とわけられ、前者については議事の記録を、後者については作成すべき記録については「情報交換等を行う会議等」で「活動期間、活動場所、チームの構成員、その時々の活動の進捗状況や確認事項を記載した文書、配布資料等」としています。
対策本部会議前の「連絡会議」は「政策の決定又は了解を行う会議等」ではないと国会等では答弁されていますが、これについて議事概要ないし議事録を作成するとした点が、今回、通常の文書の作成義務の範囲を拡充し、作成を表明したものと思われる部分です。しかし、歴史的緊急事態としたことによって、通常の会議等についての文書の作成義務としてガイドラインに定められている、①先述した審議会等・懇談会等、国務大臣を構成員とする会議及び省議の議事の記録、②政策立案や事業の実施方針に影響を与える打合せ等の記録に加えて、どの範囲の会議について議事の記録ないし打合せ等の記録の作成を求めるのかは明らかではないので、その範囲を明確に指示し、歴史的緊急事態としての記録の作成漏れがないように対応してください。

※ 2012年6月の行政文書ガイドライン改正で、歴史的緊急事態に対応する会議等のうち「政策の決定又は了解を行う会議等」の議事の記録作成義務を定め、「政策の決定又は了解を行わない会議等」でも一定の記録作成を義務づけた。ガイドライン改正内容について示した「東日本大震災に対応するために 設置された会議等の 議事内容の記録の未作成事案についての 原因分析及び改善策」(公文書管理委員会)では、「意思決定型の会議等」の具体例として「原子力災害対策本部、緊急災害対策本部、政府・東京電力統合対策室、電力需給に関する検討会合」を示しており、政府として構成員を定めたり、公式に設置したものが想定されている。この時点では、審議会等について議事録の作成をガイドラインは求めていたものの、実際の議事録は極めて簡素なものから速記録に近いものまで、どのように作成するのかは各省庁の裁量的判断とされてきた。
 これに対し、2014年5月のガイドライン改正で、審議会等や懇談会等について、「議事の記録」(開催日時、開催場所、出席者、議題、発言者及び発言内容を記載したもの)の作成を義務づけるととともに、「国務大臣を構成員とする会議又は省議」ついても議事の記録の作成を義務づけた。結果的に、歴史的緊急事態で議事の記録の作成を義務づける範囲と、通常の議事の記録の作成を義務づける範囲が重複し、歴史的緊急事態の場合に通常に加えてどのような会議等について議事の記録の作成を義務づけるのかがわかりにくくなっている。
 また、「政策の決定又は了解を行わない会議等」についても、2017年12月のガイドライン改正で、打合せ等の記録の作成を義務づけた範囲と重複している部分があると思われる。順次ガイドラインの改正を行っているためわかりにくくなっているところがあると思われる。今後、歴史的緊急事態における記録作成のあり方については、通常時の文書の作成義務の範囲を踏まえて整理し、ガイド欄の求めるマニュアル等に適切に反映するとともに、必要に応じてガイドラインそのものの見直しもすべきであることも申し添える。

 
6)3月9日の参議院予算委員会の安倍首相答弁によると、連絡会議は1月26日から行われており、開始以降の議事概要ないし議事録が作成されなければなりません。今後作成する記録が、議事概要なのか、あるいは「議事の記録」を作成するのか明らかではありません。どのような記録を作成するのかは改めて明確にしてください。また、今後の会議について、議事の記録が作成できるよう録音を行ってください。併せて、連絡会議の議事の記録ないし議事概要の作成・公表は速やかに行うべきですが、優先順位をつけ、学校の一斉休校を決めたと言われる、2月27日対策本部前の連絡会議の記録についてまずは速やかに作成・公開すべきです。また、その他、重要な決定を行った場合は、その前に行った連絡会議の議事の記録は優先的に作成・公表するよう求めます。

7)連絡会議の会議記録が何らか作成されたとしても、会議時の資料等も併せて保存されている必要があります。これまで、首相や官房長官と各省庁幹部の面会の際の資料について、関係省庁に原本・正本があるとして内閣官房において廃棄を速やかに行っていることが明らかにされており(2019年4月13日、7月2日毎日新聞など)、内閣官房・官邸における行政文書の管理の程度には重大な懸念を持っています。連絡会議については、用いた資料についてはどのようなものであれ一括で体系的に保存してください。紙文書での保存は大量になるという意見もありますが、政府は電子政府化を推進しており、「行政文書の電子的管理についての基本的な方針」(2019年3月25日内閣総理大臣決定)に沿って電子的に管理を行い、量が多いから保存が大変、何でも保存しておけないなどと、間違っても言うことのないように対応してください。

8)連絡会議に関わらず、感染症対応に関して国会答弁、記者会見などでたびたび「専門家の意見を聴いている」と首相、厚生労働大臣などが言及しています。専門家会議ではなく「専門家」という言及を行っており、どのような専門領域のどのような専門家から意見を聴いているのか、どのような意見が政策判断に影響を阿多ているのかがわかるよう、記録を作成してください。

9)専門家会議については、歴史的緊急事態か否かに関わらず、会議が開催されれば議事の記録の作成が義務付けられる対象です。しかし、第3回を最後に持ち回り開催となっており、第3回以降に見解等が示されています。第4回、第5回については、3月10日になってようやく資料が公表されました。見解を会見等で述べる前に、関係資料は速やかに公表すること、会議を開催していないのであれば、公表された文書がどのような経緯で作成されたものか、用いられたものかについての補足的な説明を議事録の代わりに作成して公表し、関連資料がある場合は一緒に公開してください。

10)3月6日にBuzzfeedに掲載された、専門家会議構成員の岡部信彦氏のインタビューには、「いろいろな対応や見通しに関する医学的科学的な意見交換といったような非公式の集まりもしょっちゅう行ってい」るとあり、専門家会議の活動実態そのものが極めて不透明です。非公式会議について議事の記録をすべて作成することは困難であるとは思いますが、専門家としての「見解」がどのような根拠やデータに基づき、どのように評価をされた結果出されたものであるのかが十分に記録され、行政文書として体系的に保存されていなければ、見解そのものの信頼性を大いに欠くことになります。少なくとも、①専門家会議の見解や評価の経過における非公式会合も含めた活動記録を残すこと、②見解の根拠となるデータや資料については体系的に保全・保存ができるよう具体的な対応を行うこと、③専門家会議の「公式会議」が開催されないのであれば、非公式なやり取りを記録していると思われる電子メールの保全・保管を一括して行うこと、など具体的な対応策を講じてください。

11) 厚生労働省や内閣官房において、新型コロナウイルス感染症についてさまざまな情報が公表されています。感染予防や感染が疑われる場合の対応についての情報提供は有用ですし、一次情報に近い情報の公表も有用です。しかし、現状を客観的な事実として伝えることも重要です。厚生労働省や官邸のウェブサイトのコンテンツは徐々に整理されたところもありますが、今の状況を客観的に示す情報を簡潔に示し、その根拠となる情報やデータが確認できるよう、情報公開を積極的に行ってください。説明の前提となる客観的な情報に容易にアクセスできることが重要です。

以上

 

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