[ブログ] バックアップデータは行政文書なのか?は結構悩ましい問題

 
 この質問をいくつもいただくので、備忘録的なメモ程度のものですが、頭の整理も兼ねて書いておきます。結論的に言うと、公文書管理法や情報公開法がこれまで想定している「行政文書」という定義の考え方の範疇を超えているところもあるように思うので、そう単純な問題ではないと理解しています。

 このバックアップデータ問題は、森友学園交渉記録の情報公開訴訟で、交渉記録の電子データを証拠保全申立てしたときによくよく考えたことでもあります。そもそもバックアップデータというものがどういう状態のものかそんなによく理解しているとは言えないところもあるので、具体的な状態に即した整理が難しいところはあります。ただ、結構悩める話であって、単純に○×つけて何か前向きに物事が進むとも思えない。今の政府の見解が良いかどうかは別にして、政府は行政文書ではないとするならば相応の丁寧な議論が必要であろうと思います。

 その前提として言うべきことがあるとすると、例えば「森友学園交渉記録」「桜を見る会の招待者名簿」という個別の政治問題のためにどう解釈するかというだけで議論をすると、制度全体を考えたときには害の大きいものを導き出すかもしれないということです。個人的には、個別の問題も重要なのでその追及はすべきだと思いますが、そのためには何でもいいということにはならないということです。

 サーバのバックアップデータを作成すること自体は、組織として作成すると意思決定されて行っていることなので、仕様として組織的に作成・取得されていることは間違いないと思います。このデータは、行政機関が所有しているわけですから「保有」しているともいえる。データを復活させる必要がある場合は、そこからデータを回復させることになるので組織的に用いる状態にあることも言えるとは思います。

 行政文書の定義が①職員が職務上作成・取得した文書で、②組織的に用いるものとして、③行政機関が保有の3要件なのでいずれにも該当しているようには見えます。ただ、行政文書の定義は情報公開法で作られ、それが公文書管理法でも共有しており、請求対象となりかつ管理対象となるものという想定で制度が動いています。そこでいくつか矛盾に満ちた状態が生まれます。

 一つは、バックアップデータという塊として組織的に用いる状態にあることと、バックアップデータそのものから、個々の文書を判別して組織的に利用できる状態にあることが一致していない状態にあるようだということです。「組織的に用いる」が、これまでの解釈判断だと、職員の業務環境で通常の方法で認識でき利用できる状態であることを前提としているので、バックアップデータはそういう状態に当たらないという説明を官房長官などはしているということになります。これは、個別に作られいている文書のバックアップやコピーとは別に、サーバ全体としてのバックアップという意味ですね。

 この整理は、情報公開法と公文書管理法が共通して「行政文書」の定義を使っていることで、こういう話になっているところがあります。情報公開法の側面から見ると、情報公開請求があった場合、請求内容に合致する行政文書を探索し、情報内容を確認して開示・不開示の判断ができることを前提に制度が動いており、行政文書とはそういうものという理解で解釈判断がされる傾向にあります。そのために、過去の解釈判断はそれをベースに出てきており、官房長官会見で述べられた解釈はその中で出てきているものです。

 一方で、公文書管理法の観点から言うと、どういう利用可能性であれ管理が必要なデータの塊がある以上は、適正な管理が必要になるため、本来であればバックアップデータの文書ライフサイクルを決めるべきだろうと思います。しかし同時に、適法・適正な手順で廃棄・削除した文書がバックアップデータに残り、それがかなり長期にわたり復元可能な状態だとすると、そもそも「廃棄」という概念が一体何なのかという問題が出てきます。これはこれで、かなり矛盾した状況を生むことになるわけです。

 そうすると、通常は誤廃棄・削除、違法・不適切な廃棄・削除、改ざんなどが発生した場合に、本来の行政文書を復元させる手段であるが、情報公開法や公文書管理法が両方の枠の中で想定しきた「行政文書」の範囲を超えて存在しているデータになっている面は否めず、宙に浮いているように思います。

 ただ、バックアップデータが存在し、行政文書の復元手段として不可欠である以上は、その取扱いや管理、そして、復元等について行政機関としてどのような責任を負うのかについては、明確にする必要があろうかと思います。例えば、復元等についてどういう場合に積極的な義務をを負うのか、あるいは行政文書の違法・不適切な廃棄、不当な改ざん・書き換え等が発生した場合の行政機関の義務は何かなどです。議員の資料要求後に明らかに対象となっている、あるいは関連文書を廃棄・削除した場合は、復元義務があるということも同じですね。

 それは、例えばバックアップデータや過去データの復元でよく話題になる、犯罪捜査や国税の調査などでデジタル・フォレンジックでデータ復元が、違法行為の捜査のためというような理由で行われるのと似たよう話しにはなってきます。

 また、バックアップデータが焦点になっていますが、デジタルの記録については、情報公開法、公文書管理法との関係でも整理が必要な時期に来ていると思います。

 例えば、これまで情報公開法のもとではパソコンを操作すると自動的に生成される情報は、行政文書ではないと判断してきています。例えば、文書をWORDで作成していると、ここの文書にはプロパティ情報が生成されますが、これは行政文書ではないと判断される一方で、それがプリントアウトされて保存されていると行政文書に該当するということになります。職員が作成・取得したかということが問題になるわけです。

 デジタルの生成されるメタデータのようなものは、WORDのプロパティ情報のような行政機関や職員の意思とは関係なくソフトウェア側で生成されるものと、行政機関として調達したものによって生成されるものがあり、後者は行政文書に間違いなくなるのではないかと思いますが、前者はでは関係ないのかと言えば、行政文書と一体の情報でもあるわけです。

 また、この先AIの活用により「行政文書」というこれまでの範疇にどういう影響が出てくるのかも不確かではあります。行政文書は単に定義に当たるか否かではなく、内容に職務上の責任を負うということも含意されていると思いますので、そうするとどのような条件に当たると行政文書から排除されることになるのかなど、いろいろ考えることはあるのではないかと思います。

 そしてもう一つの問題としては、行政文書を公文書管理法と情報公開法でまったく共有している状態が、この先も望ましいのかということです。行政文書の定義に関する解釈判断は、情報公開法のもとでの不開示や不存在決定の事案の中で蓄積されていきます。また、両者がカバーできるように調整されてしまうところがあります。この状態で本当に大丈夫かは、いろいろ考える必要があると思います。(三木由希子)

 

Print Friendly, PDF & Email