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[News]日米合同委員会情報公開訴訟 国が文書提出命令回避のため主張を撤回する異例の展開

 2015年12月に情報公開クリアリングハウスを原告として提訴した日米合同委員会議事録情報公開訴訟。情報公開請求の対象が、1960年の第1回日米合同委員会の議事録のうち、日米双方が合意をしないと議事録を公表しないとする記述の部分のみでしたが、外務省が全部不開示としたため訴訟になっていました。

 その後、国家賠償請求に変更して係争し、2017年8月に国に注意義務違反がないとする主張で引用されている日米間でやり取りしたメールの文書提出提出命令を申し立てていました。そうしたところ、2018年2月28日になって、国が注意義務違反がないとする中心的な主張を文書提出命令回避のために従来の主張を撤回するという、異例の展開になりました。簡単に経過を紹介します。

不開示決定から決定変更、国賠へ

 201年10月に国が決定変更を行い請求対象の議事録部分を公開したことで、原告が国家賠償請求に訴えを変更し係争してきました。途中で決定変更するに至ったのは、2015年3月に国が沖縄県に対して提訴した、県の行った日米合同委員会関係の文書の公開決定の取消しを求める訴訟で、国がまさに不開示とした文書を証拠提出していたことがわかったからです。情報公開クリアリングハウスの情報公開請求は2015年4月。那覇地裁で証拠提出された後に不開示決定を行っていました。

 公開している文書を不開示決定としたので、国が注意義務に違反しているとして国賠請求で争っています(現在も係争)。国は、不開示決定時点でアメリカ側にメールと電話で確認したところ、公開に同意しなかったため、双方に合意がなければ公表しないという日米合同委の取決めに沿って不開示決しており、注意義務に違反しておらず問題ないという主張をしていました。

 国がメールを根拠に注意義務に違反していないと主張するものの、本当にメールにそのような記載がされているのかわかりません。そこで、メールの提出を弁論で国に求めましたが拒否したため、文書提出命令を申し立てていました。

文書提出命令から国が提出命令回避で主張撤回へ

 申し立ての根拠は、メールが引用文書であるということ。国が準備書面で積極的にメールの存在を明らかにし、その内容を引用しているので、こういう場合、国の主張が正しいとという一方的な心証を裁判所に抱かせることになることから、「引用文書」と認められれば文書提出命令となります。積極的に存在を明らかにし引用いている文書は、引用した時点で秘密保持を放棄されているとみなすべきという学説もあります。

 国は、引用文書ではなく必要な限度で説明しているものであること、秘密保持は放棄していないことなどを主張し、かつアメリカ側がメールの提出に同意していないことを、以前に証拠提出したアメリカ側の日米合同委員会代表名で出ている書面をもって、文書提出命令に応じられないと主張してきました。

 そろそろ文書提出命令の判断を裁判所がしようかという段階になった2月28日、国は突然、メールのやり取りなどよって日米間で請求対象の議事録の公開に同意しないことを確認したとする準備書面の主張の撤回を主張するという異例な展開を迎えます。その理由は、

  • 受信者双方ともに公にしないことを前提に率直な意見、表現、情報を示し、機微に触れる情報もたぶんに含まれていること
  • 米側が、メールを提出することにより日米間の信頼関係に対して害を及ぼすこと、将来の日米間の内部調整に萎縮効果をもたらし在日米軍の安定した駐留を阻害することなど、きわめて強い反対の意向を表明していること
  • 文書提出命令が出されたとしても、米国政府が証拠提出に同意する余地がないこと
  • したがって、文書提出命令を回避することを最優先とする必要があり、文書の取り調べの必要性を消滅させるために申立て対象となっているメールに関連する主張を撤回すること

というもの。当初の不開示決定に国賠上の違法がないことの中心的な主張の撤回は、文書提出命令を回避するため、その背景にあるのは文書提出命令が出ても提出に強い反対の意向を表明していることを挙げています。国賠の違法がないことの中心的な主張を撤回すると、国にとっては国賠で敗訴する可能性も出てくるわけですが、それよりもメールの文書提出命令を回避する方に優先順位があるという判断は異例です。文書提出命令で旗色が悪くなり、このような異例な動きを見せているとも言えます。

解せない国の動き まだまだ続く訴訟

 そもそも、文書提出命令の申立て対象は、開示請求に対して議事録の開示するか否かを尋ねるメールであり、かつ開示請求対象の情報も機密性などない内容。メールに機密情報、機微に触れる情報がそもそも含まれる余地はないと思われます。また、原告は、日米間における日米地位協定に関する一般的な連絡やメールの文書提出を求めているものではありません。むしろ、メールでの不開示確認が明示的にされていれば被告に有利であるにもかかわらず、国賠法上の違法がないことの根拠の主張の撤回とメールの提出を拒んでいるため、国の動きは解せないところです。

  もとは、日米合同委員会の過剰な非公開に対するアリの一穴、わかりにくく遠回りのように見えるかもしれないけど、崩せそうなポイントに絞ってくさびを打ってみたら、意外に核心的な部分に刺さったという感じではあるので、この情報公開請求と訴訟は当初の想定を超えて、面白いケースになっていると思います。

 国は、文書提出命令回避のために主張の撤回するとしていますが、国賠の注意義務違反がなかったという主張は維持していますので、撤回した主張に変わる何らかの主張を次回までに行うになっています。また、文書提出命令の申し立てもまだ終わっていませんので、これについても国が主張の補充を行い、それを受けて原告としても対応を検討することになっています。とりあえずのところは、国の書面待ちになります。

【これまでの時系列】

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