【ブログ】公文書管理委員会で検討されたこと

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 7月7日、内閣府公文書管理委員会が開催されました。南スーダンPKO日報問題、森友学園への国有地売却の交渉記録の「廃棄」問題、加計学園問題の文科省文書と、行政文書とは何か、行政文書の保存期間はどうあるべきか、という公文書管理の根幹にかかわるところに問題があることが問われてきました。

 これらの問題はいずれも、問題の内容としては南スーダンPKO日報だから、森友学園だから、加計学園だから起こったというものですが、行政文書の取り扱いという点では「これらの問題」だからではなく、もっと普遍的な問題です。PKO日報は南スーダンに限らず1年未満で廃棄、国有地売却の交渉記録は森友学園案件に限らず1年未満で廃棄、省庁間の協議記録は「個人メモ」扱い、ということを、この間政府は一貫して主張をしてきていると理解すべきものです。

 では、これから政府は公文書管理のあり方について何をしようとしているのか。法やガイドラインの改正の検討を行う公文書管理委員会を傍聴してきました。

 初めに理解をしておいた方がよいのが、公文書管理委員会は2015年度に法の見直し検討を行い、2016年3月に報告書を出していること、これを受けて2016年2月の会議でガイドラインやそのほかの対応事項についての対応を検討していました。今回の会議は、これまでの既定路線を受けて開催されており、この間問題になっている案件への対応のために開催されているわけではない、ということです。

 そのため、検討事項は既定路線の国立公文書館等に移管することになる歴史公文書等の範囲の明確化と、そこにこの間の問題を受けて1年未満の保存期間行政文書の扱いを加えたというものになっています。ただ、公文書管理委員会で事務局から、1年未満の扱いについては今回は問題提起で、具体的には次回以降の検討との説明が資料説明の段階であり、具体的な意見交換は今回は行われていません。

何を歴史文書にするのか?

 従来から問題になっているのが、廃棄対象になる行政文書ファイル等の0.4%程度しか歴史文書として国立公文書館等に移管されていないという問題です。欧米では2~8%が移管されているともいわれていますので(ただし、管理対象となっている公文書が異なることがある)、日本の移管率がいかに低いかがわかります。そのため、何を歴史文書とすべきか、という判断をする基準をより具体化する、あるいは明確にすることは必要であります。今回の会議で、その考え方が3つ示されています。

(1) 歴史公文書等の基本的考え方として「当該文書を参照することで、事案の発端から意思決定に至る行政機関の活動を検証することが可能となるもの」というような記述を追加する
(2) 移管が必要となる事項について、サッカーワールドカップ日韓共催の時点で例示が終わっているため、「東日本大震災、2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会、領土・主権対策等」を追加する
(3) 歴史公文書等の類型として「行政機関が実施する重要な政策」については「当該政策の企画・立案から実施に至る過程において、国民に説明する責務を全うするために必要となる事項が記録されたもの(企画書、意見交換録、実施計画書、実施報告書等)」を追加する

 この基準が行政文書の廃棄審査の時に同意するか否かの判断基準になるので重要な議論ではありますが、現在問題になっているのは、むしろ、歴史文書にはならないが、政府が説明責任を果たすべき期間であっても廃棄している、あるいは行政文書とすべきものを個人メモとしている、という問題です。歴史文書に該当するか否かは、その前の行政文書の作成・取得、管理が適切に行われていて初めて成り立つ議論なので、本来は、行政文書の保存期間の考え方の適正化が先にすべき議論ということになります。

 この行政文書の管理が政府の説明責任を果たすに必要な期間を設定して行われていることがまずは重要で、そのうえで、業務の性質や内容に応じて歴史文書にする必要があるか否かという順に議をする必要があります。その点、公文書管理委員会は、今回はその点は議論をすることを予定していないところであります。ただ、委員の一人である城山東京大学教授が保存期間について、

「古典的な政策決定を想定しているものではないか。例えば、外交でも条約の関係など形に残る意思決定を念頭にしていたり、他にもボトムアップ型の政策決定を念頭にしている。今は、トップダウンで決まるものもあるし、外交だと文書に残らないが重要なものもある。類型も書き直す必要がありうる。ジェネラル・バスケットも一つのやりかただけど、精査してカテゴリーの検討の必要もあるのではないか。」

と発言をしており、この点は議論の方向性としてはあり得るのではないかと思います。

保存期間が1年未満の行政文書

 事務局が問題提起、と説明したのは、以下のような内容です。

 保存期間1年未満の行政文書については、1年未満の保存期間を設定することが許容される基準が不明確である等の指摘があることから、以下の点について対応を検討してはどうか。

  • 1年未満の保存期間を設定することが許容される行政文書の範囲の明確化を検討
  • 通常は1年未満保存となるものでも、重要又は特別なものについて1年以上の保存期間を設定することの明確化を検討
  • 1年未満で廃棄する場合の廃棄に係る責任の所在の明確化を検討

 1年未満の保存期間でよい行政文書とは何かは、現在は何の基準もなく裁量的に各行政機関で決めています。情報公開クリアリングハウスでは、この1年未満の保存期間を原則廃止する意見書を4月12日に出しており、その後、1年未満文書が個別の廃棄審査を経ずに裁量的に廃棄されていることについて、その根拠となる内閣総理大臣決定の一時凍結を要望していました。

 原則廃止ができないとしても、何等か基準なり対応が必要な状況ではあるので、検討を行うこと自体は歓迎したいと思います。問題は、1年未満の保存期間文書の実態を客観的に把握する方法がなく、ブラックボックス化している中でどのような基準を設定するのか、ということです。

 これについて、三宅委員が「1年未満文書がどうなっているのか、どういう扱いにしているのか、各省庁の扱いを見ないと具体的に提案ができないのではないか」と指摘。ただし、流れとしては各省庁の行政文書管理規則のさらに下にある細則などの確認という方向で、宇賀委員長が「事務局で調査をして次回資料などをお願いしたい。」とまとめたので、次回何か資料が出てくることになりそうです。

 また、城山委員の「ガイドラインでは、歴史公文書等に該当する場合は保存期間を1年以上としているが、1年未満の行政文書の扱いを改善するということは、1年以上のものは何かの記述を詳細にするというイメージでよいか」という質問に対し、事務局から「例えば、典型的な例示をするか、こういうものは1年以上という決め方をするか、書き方の選択はある。他の規定等との整合性を考えて検討したい」との回答がありました。どこまでどのように決めるのか、まだ見えてきません。

 委員の発言の中で気になったのは保坂委員で行政文書としての保存期間の設定の問題から、「1年未満とはどこで確定されるのか。他の文書の保存期間や、歴史公文書等がどこで確定するのか。行政文書の確定が緩いのではないか。」との指摘がありました。この前には「行政文書を作成・取得した段階で帳簿のようなものに記載するなどして管理をするということなのか、ガイドラインに記載がないので扱いがわからない。」とも発言をされています。趣旨は分かるのですが、何か手続を踏むことで「行政文書」として確定させようとすると、結局、文書の使われ方で行政文書該当性を判断するという、現在の行政文書の定義を狭めることになります。これが、内閣官房長官などがいう行政文書と個人メモの線引き論につながる議論の呼び水になることは想像に難くないところです。

 この形式的に行政文書性を決めないという現在の定義は、あくまでも政府の説明責任を果たすため、それも良くも悪くもそれを果たすというものとしてその範囲を考えるべきところです。1年未満保存文書の明確化は、裏を返すと短期保存文書の何を行政文書とすべきか、という議論にもなりかねないので、注意が必要です。

 今後のスケジュールは、夏ころにガイドライン見直しの検討を行い、委員会とは別に各省庁へのヒアリングが実施され、秋には改正案を作成してパブリックコメントを実施というものが示されています。パブリックコメントまでに2回程度の会議の開催になるのかなとも思います。これで何ができるという気もしていますが、議論をする以上はしっかりウォッチングしてきたいと思います。

 ちなみに、今日、委員会に出席した委員は6名、そのうち2名は一言も言葉を発せずに会議が終わるという、よくあることも言えますがやはりどうなんでしょうと思います。また、報道関係者や場合によっては傍聴者の問題意識や目線と、内閣府や委員の「熱度」が明らかに違うのも国の審議会等の特徴でもあります。こうして第三者機関は世の中に失望感を増幅させていくのかとも思うとともに、もっと、開かれた議論や論点設定をすればよいのに、とも思います。海外の事例が何でもよいとは言いませんが、論点設定や設定した論点へのコンサルテーションを行っていて、この段階で筋の悪い論点は落とすとか、新たに論点を加えて整理をするということがあります。その程度のことは、政府としてできる程度の度量と度胸は持ってほしいところです。(三木由希子)