パーティー券裏金によってどのように政治資金収支報告書は訂正されたのか?(下)

 
 「パーティー券裏金によってどのように政治資金収支報告書は訂正されたのか?(上)」では、収入の訂正がどのようにされたのかを見てきました。(下)では、支出の訂正状況を見ていきます。

※萩生田光一議員の収支報告書が再訂正されたため、それを反映しました。(2024/4/24)

 

実は支出も訂正されている収支報告書

 

 各国会議員が行った政治団体の収支報告書の訂正では、収入の訂正だけでなく支出の訂正も行っている場合があります。訂正された収支報告書のうち、およそ3分の1で支出の訂正がされており、各年の訂正状況は以下の通りです。

2020 2021 2022
支出訂正なし 48 45 43
支出訂正あり 28 21 26
合計 76 66 69

 

 支出の訂正は、収入の訂正よりさまざまなバリエーションがあります。傾向としては、訂正で追加した収入金額と同額あるいはおよそ同額の支出を追加計上しているものが、2020年で15団体、2021年で4団体、2022年で7団体とありました。訂正した収入額を大きく超える支出を計上する訂正をしている政治団体もありました。これらについては後述します。

 また、支出の訂正では「組織活動費」を金額不明と訂正しているものがあります。年間の収支総額のうち当該年の収入額のみ金額を示し、それ以外を不明とする訂正を行ったのが以下の議員です。

萩生田議員は2024年3月29日に再訂正を行い、①2020年は組織活動費として1,439,610円を追加支出計上、②2021年は組織活動費として147,630円を追加支出計上、③2022年は組織活動費として1,405,904円を追加支出計上し、「不明」ではなくなりました。

 

 上記のうち、世耕議員は2021年に宣伝事業費について2,411,300円(ポスター・ビラ・看板等作成費)を追加計上し、組織活動費は支出額不明と訂正しています。

 萩生田議員は、2021年に寄付・交付金支出として170万円(自民党支部への支出)、選挙関係費として300万円(萩生田光一選対本部への支出)を追加計上しました組織活動費は支出額不明と訂正しています。このうち、自民党支部への寄付・交付金支出について、すべての確認は行っていませんが、いくつかの追加支出先となっている自民党支部の収支報告書を確認したところ、萩生田議員の支部からの交付金収入が記載されていました。萩生田議員側で、収支報告書に記載しない資金提供になっていたことになります。

 【2024/4/24追記】萩生田議員は、2020年に1,439,610円、2021年に209,970円、2022年に1,405,904円の組織活動費を追加計上する訂正をしました。基本的には会食費・会議費ですが、例えば2020年は5回で1,439,610円の追加支出の内、1,313,610円(4回分)が同じ企業への支出になっており、2021年は1回分の支出も同じ企業、2022年分は必ずしも特定の企業に追加支出先が集中しているわけではありませんが、やや釈然としない支出の訂正になっています。

 

支出の訂正金額はわかるが使途の確認ができない

 

 支出として裏金分を追加計上しているものの、使途不明となっているものがあります。該当する議員は以下の通りです。

 

 「組織活動費」か「その他経費」に支出金額を追加訂正しているものの、「使途不明」となっているため領収書等で何に使用したか確認できない支出となっています。上記議員のうち、金額が大きいのは堀井学議員で、2020年に436万円、2021年に650万円が使途不明です。

使途を確認できない費目で追加の支出を計上した議員もいます。支出項目のうち「人件費」は収支報告書に内訳の記載が不要で、領収書の提出・開示も不要です。裏金と同額を人件費で支出したと訂正したのは、以下の議員です。

  • 井上義行:2021年の裏金40万円を全額人件費として追加計上
  • 羽生田俊:2020年の裏金70万円を全額人件費として追加計上
  • 平沢勝栄:2020年の裏金288万円を全額人件費として追加計上。
  • 吉野正芳:2021年の裏金50万円を全額人件費として追加計上。

 

また、裏金全額ではないものの、人件費を追加計上していたのが以下の議員です。

塩谷立 2022年の裏金120万円で、支出として1,198,695円を追加計上。そのうち、人件費が30万円。2020年の裏金76万円で、762,669円を追加計上。そのうち、人件費が10万円、
羽生田俊 2022年の裏金296万円で、支出として1,035,622円を追加計上。そのうち、人件費が50万円。
平沢勝栄 2021年の裏金792万円で、支出として650万円を追加計上。そのうち、人件費として150万円。残りは政党支部に交付金として支出。
若林健太 2020年の裏金78万円で、支出として1,319,579円を追加計上。そのうち、人件費として382,200円。

 

人件費は内訳を明らかにする必要がなく、領収書の提出開示も不要な支出です。人件費への支出の追加計上は、使途を確認できないという点では使途不明と変わりありません。また、どこかから支出されていた人件費を振り替えているはずですが、各議員の関係政治団体の支出を確認しても、人件費について収支報告書の訂正をしていませんでした。どこから出てきた何のための人件費を振り替えたのか、収支報告書では確認できないのであれば、少なくとも何の人件費を振り替えて支出させたのかは説明が必要です。

 

収支報告書には記載されない1万円以下の少額支出の使途

 

複数の支出に追加計上したり、特定の費目に追加計上したりと、支出の訂正方法にはほかにもさまざまなバリエーションがあります。その一つが、収支報告書に使途の記載を要しない1万円以下の支出を追加しているものです。「その他の経費」「備品・消耗品費」「事務所費」「組織活動費」などに支出を追加していますが、中でも金額の大きな明細なしの追加支出を計上している議員がいます。

例えば、長尾敬元議員は、2020年の収支報告書で、裏金78万円と同額を「その他の経費」に計上。2022年には支出として1,653,046円を追加計上し(裏金は204万円)、全額を「その他の経費」に計上し、明細のない1万円以下の支出として訂正しています。

中山泰秀元議員は、2021年に支出として2,273,881円を追加計上し、内訳は備品・消耗品費として612,000円、事務所費として1,711,831円を計上。2020年に支出として2,046,000円を追加計上し、備品・消耗品費として561,000円、事務費として1,485,000円を計上していることまでは確認できますが、いずれも明細のない1万円以下の支出としての訂正です。

高鳥修一議員は、2022年に支出として1,264,180円を追加計上し、組織活動費に計上していますが、明細のない1万円以下の支出と訂正しています。

いずれも金額の大きな訂正であるものの、1万円超の支出はないという訂正方法になっているので、実際に何に支出をしたのかは、「少額領収書」の開示請求を行って確認するほかありません。

 

過去に支払いのないローンの支払いに充てる議員

 

尾身朝子議員は、支出の訂正として2020年に1,192,360円、2021年に1,104,150円、2022年に1,077,448円を追加計上していますが、すべて「備品・消耗品費」に追加計上しています。

追加支出は、ローン返済(おそらく車両)、自動車税、自動車保険、自動車整備代など車両関係です。収支報告書を訂正した政治団体の2020年より前の収支報告書を確認すると、いずれにもローン返済などの支出はありません。いずれも支払いはすでに行われているものなので、どこかで誰かが支払っていたものを、政治団体の支出に振り替えているということになります。

前述した中山泰秀元議員も、備品・消耗品費として車両ローンを追加支出計上しています。2020年より前の収支報告書にさかのぼって確認をすると、以前から支払っている車両ローンがありますが、訂正されたのはそれでではない車両ローンで、過去に同様の支出が確認できないものでした。これも、誰かが支払っていたものを、政治団体の支出に振り替えているということになります。

尾身議員、中山元議員に限らず、支出を追加的に計上しているということは、どこかで誰かが支払っていたものを政治団体の支出に振り替えていることによって、誰かがその支払い分の金額を受け取っていると考えるのが自然です。どのような経緯で支出が振り替えられ、追加されたのかの説明は必要です。

 

大幅に支出が増えた議員

 

二階俊博議員の政治団体は、巨額の書籍代を訂正により「調査研究費」として支出計上したことでよく知られていますが、2020年、2021年は裏金金額よりかなり多額の支出を追加訂正しています。2020年は裏金が618万円、支出追加計上額が11,767,100円、2021年は裏金が622万円、支出追加計上額が22,649,330円、2022年は裏金より追加支出が大幅に少ない訂正です。

二階議員が2021年に書籍を購入した先が山谷えり子議員の政治団体「21世紀の会」で、154万円の支出先として追加記載されています。山谷議員の収支報告書では154万円を二階議員政治団体からの収入として訂正記載し、さらに扶桑社から書籍購入費として1,233,100円を支払ったと訂正しています。おそらく、著者なので著者割(著者に対する特別な割引価格)で出版社から仕入れて、定価で販売したということなのだろうと思われます。しかし、これもすでに誰かが支払い、販売対価を受け取っていたものと振り替えているはずです。

いずれも、どこかで支払済みの支出を政治団体の支出に振り替えているので、その分の金銭がどこかに流れていると考えるのが自然です。これについてもどこが支払っていたものを政治団体に振り替えたのかの説明が必要です。

二階議員以外にも、裏金額より多額の支出を追加計上する訂正を行っている議員がいます。岡田直樹議員は、2022年に80万円の裏金を派閥からの寄付として収入訂正していますが、支出の訂正額は4,994,000円です。内訳は組織活動費が99万円で、調査研究費として4,004,000円を計上し、情勢活動費として特定の選挙コンサルティング会社に2回に分けて同じ日に支出をしています。

 

248万円もの支出をゼロに訂正した議員

 

支出の一部を減額訂正した議員は複数いますが、高額の減額訂正をしたのが次の議員です。

大塚拓議員は、2020年の「その他雑費」としての66万円の支出を訂正し、0円としています。亀岡偉民議員は、2020年と2022年に、「その他経費」としての亀岡議員自身への返済それぞれ90万円と158万円を0円とする訂正を行っています。堀井巌議員は2021年に、後援会への寄付金93万円の支出を訂正し、0円とする訂正を行っています。

亀岡議員は裏金を収入計上する際に、借入金を派閥寄付に振り替える収入額は変わらない方法で訂正を行っていますが、この借入金は議員から借り入れたものになっています。返済分の248万円の支出を削除したのは、どのような趣旨なのか、説明が必要です。

 

ほかにもいろいろ支出を追加訂正している議員たち

 

支出の訂正をした議員はほかにもいます。

上野通子議員は、裏金の処理のため2020年から2022年の収支報告書の訂正をしていますが、いずれの年も支出も訂正しています。2020年は総額で1,113,368円の追加支出を計上し、内訳は事務所費、備品・消耗品費、選挙関係費での追加。2021年と2022年はそれぞれ442,234円と445,601円の追加支出で全額事務所費に計上しています。

江島潔議員は、2022年に145,125円追加支出を計上し、全額組織活動費で交通費が主たる使途となっています。木村次郎議員は、2022年に292,458円を追加支出計上する訂正を行い、全額組織活動費でそのうち10万円は安倍昭恵さんへの香典となっていました。

佐藤啓議員は、2020年と2022年にそれぞれ217,601円、780,730円の追加支出を計上し、内訳は備品・消耗品費、組織活動費となっています。杉田水脈議員は、2022年に1,513,331円の追加支出を計上し、同じく内訳は備品・消耗品費、組織活動費です。

根本幸典議員は、2020年に198,841円を追加支出計上し、費目は組織活動費を追加、2021年は2,012,743円の追加支出計上で、事務所費、組織活動費、宣伝事業費、調査研究費に支出を追加、2022年は1,314,453円を追加支出計上し、備品・消耗品費、組織活動費、宣伝事業費、調査研究費に支出を追加しています。

松野博一議員は、2020年と2021年の収支報告書を訂正し、支出としてそれぞれ105,495円、382,713円を追加計上し、いずれも全額組織活動費となっています。

三ツ林裕巳議員は、2020年に628,800円の追加支出を計上し、そのうち事務所費が68万円で防犯カメラ工事費と追加記載されました。2021年は少額の35,500円を追加支出と訂正し、備品・消耗品費、事務所費での支出となっています。2022年は1,911,732円の追加支出として計上し、そのほとんどが組織活動費となっています。

山田宏議員は、2022年に支出の訂正を行っており、額は210,871円で、備品・消耗品費と組織活動費に支出を追加しています。若林健太議員は、2020年に1,319,579円の支出を追加し、人件費の他に事務所費、組織活動費に計上。2021年は505,015円の支出の追加で、備品・消耗品費、事務所費、組織活動費、調査研究費に計上。備品・消耗品費の追加支出には「議員バッチ代」が含まれていました。2022年は161,170円の追加支出で、組織活動費、調査研究費の支出としています。

 

使える領収書をかき集めたのか、使途の明細のいらないものを振り替えたか

 

追加支出の訂正をした支出の領収書の開示請求をして確認をしていないので、あくまでも推測になりますが、追加支出の状況を整理していくと、手持ちの領収書で宛名が特定されていないもの、あるいは請求先は政治団体ではないが、政治団体の支出としても説明がつきそうな支出をかき集めて、追加できるものを支出計上したという印象を持ちます。

組織活動費はそのほとんどが飲食費などのいわゆる交際費的なものです。事務所費や備品・消耗品費は複数の政治団体で事務所を共用していたり、議員個人の政治活動を一体化していれば、どの財布から支出をするのかは流動的になるのだろうと思われます。換言すれば、政治資金を取り巻く状況は、団体間の区別、団体か個人かの区別がつきにくい状況で管理され、不透明な収支状況になっていることが想定されます。

この政治活動を取り巻く収支・資金の中に、「調査研究広報滞在費」(旧「文書通信交通滞在費」)や政党交付金のような公費も混在しており、政治団体の収支は公私(公金と団体固有の資金)の区別もあいまいな状態になっていると考えられます。

政治資金パーティー裏金問題が浮かび上がられる政治資金の不透明さという問題には、さまざまな側面があることを踏まえて制度改正を議論する必要があります。

 

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