政治資金規正法は、公職の候補者(現職の議員も含む)が、政治活動に関する寄付を個人で受け取ることを原則として禁止しています。そのため政治団体を設立し、寄付を受け、政治資金パーティーも政治団体として開催しています。政治資金収支報告書は政治団体ごとに、活動する範囲に応じて総務省もしくは各都道府県選管に提出されます。訂正後の収支報告書の大半が総務省や各都道府県選管のウェブサイトで確認できます。
しかし、派閥政治団体収支報告書は、裏金になっていたパーティー券収入分を追加で収入に計上し、支出として各議員の政治団体に寄付をする訂正をしているため、見てもどの政治団体がどの議員のものかすぐにはわかりません。誰の政治団体であるのか。どこを確認すると訂正後の収支報告書が確認できるのかが、そもそもわかりにくい仕組みです。
このこと自体が、収支報告書が「公開」されているとしても、透明性が高いとは決して言えない現状を象徴しています。
情報公開クリアリングハウスでは、2020年から2022年分の現在公表されている収支報告書のうち、裏金問題を受けて訂正されたものを収集し、議員ごとに訂正内容の概略も確認できるようにまとめました。
裏金問題で訂正された政治資金収支報告書と訂正内容
各政治団体の訂正内容を確認すると訂正といってもその方法はさまざまで、どのような訂正状況かを分析しました。
確認できるのは直近3年分のみ、データなし政治団体も
派閥政治資金パーティー収入をキックバック、中抜きで裏金化していたことが判明している国会議員(元職を含む)の総数は、2018年から2022年で99名です。しかし、現在、収支報告書が行政機関によって保存され公表されているのは2020年から2022年分です。2018年、2019年分は訂正の対象にはなっていません。
なぜなら、政治資金規正法は収支報告書の保存期間を公表から3年間としており、2018、2019年は訂正する対象の収支報告書が行政機関側には存在しないことになっているからです。現在、山梨県知事の長崎幸太郎氏は、2019年に1182万円の裏金を作っていたことを本人も認めていますが、訂正対象となる収支報告書は存在しないので、訂正はありません。(https://newsdig.tbs.co.jp/articles/uty/962635)。
また、政治団体自体が解散をしており訂正状況の確認ができないのが、元職の今村洋史氏の黎明の会(愛知県)です。
別の制約要因として、収集した収支報告書は、総務省や各都道府県選管のウェブサイトで公表されているもののみということがあります。2022年からウェブ公表を開始した石川県・福岡県、2021年からの兵庫県、現在もウェブ公表をしていない新潟県に提出されている収支報告書は、この記事公開段階では欠落しています。
欠落状況は以下の通りです。なお、新潟県に収支報告書を届けている政治団体で2022年に訂正対象となったものはありません。
2020年分 | 岡田直樹、加田裕之、末松信介、杉田水脈、関芳弘、馳浩(元職)、細田健一、宮内秀樹、宮本周司、山田修路(元職) |
2021年分 | 岡田直樹、馳浩(元職)、細田健一、宮内秀樹、山田修路(元職) |
97名すべてが2020年から2022年のいずれの年も裏金を作っていたというわけではないので、各年で対象となる国会議員(政治団体)の数は以下の通りです。
2020年 | 76 |
2021年 | 66 |
2022年 | 69 |
収入の訂正方法で見え隠れする手練手管
政治資金規正法は、国会議員を含む公職の候補者が、政治活動に関して個人で寄付を受け取ることを原則禁止しており、政治団体を設立して寄付を受け取ることとしています。また、政党・政党支部と国政政党が特別に一つ持てる政治団体以外は、政治団体として企業・団体から寄付を受けることを禁止しています。
この違法状態から、「合法的な資金」として使えるようにするため、収支報告書の訂正処理が行われました。
派閥政治団体は、裏金になっていたパーティー券収入を収入に計上し、各国会議員の手元の裏金分を各政治団体に寄付したとする収支報告書訂正を行っています。このことで、どの政治団体に対して寄付したのかが確認できます。
ところが裏金問題は、政治資金パーティー券の主たる購入者は企業・団体等で、それを派閥政治団体パーティー券収入とせずに手元に議員が残すと、企業・団体からパーティー券という名目の違法な資金を議員個人が受けていたことと同義になります。企業・団体としてはパーティー券として購入していたということであっても、企業・団体等から政治家個人が資金を集めることを可能にするスキームが出来上がっていたことを示しています。
この違法状態から、「合法的な資金」として使えるようにするため、収支報告書の訂正処理が行われました。
派閥政治団体は、裏金になっていたパーティー券収入を収入に計上し、各国会議員の手元の裏金分を派閥から各議員の政治団体に寄付したとする収支報告書訂正を行っています。
一方の寄付を受けた各議員の政治団体は、裏金を派閥政治団体からの寄付として計上する訂正をしていますが、実際に行われた訂正にはさまざまな処理の仕方があります。大きく分けて3つのパターンがあります。
一つ目のパターンが、裏金であるため、収支報告書に記載しなかった金額を全額そのまま派閥政治団体からの寄付として新たに追加計上する訂正です。もっとも単純な訂正で、ここでは「単純訂正」とします。二つ目のパターンが、金額として記載はされていたものの、国会議員個人による政治団体への寄付や貸付、あるいは各議員政治団体が主催した政治資金パーティーの収入として裏金分が計上されていた場合です。裏金金額分を寄付や貸付、パーティー券収入から減額し、派閥政治団体からの寄付に計上し直しています。この場合、年間収入額の訂正はないため、「収入総額訂正なし」とします。三つ目のパターンが、いずれでもないもので「複雑訂正」とします。
これらの内訳を確認すると以下のようになります。
2020 | 2021 | 2022 | |
単純訂正 | 58 | 53 | 57 |
収入総額訂正なし | 6 | 4 | 6 |
複雑訂正 | 6 | 9 | 6 |
合計 | 76 | 66 | 69 |
多数は裏金の全額をそのまま派閥からの寄付に計上していますが、そうではない訂正はどのように行われているのでしょうか。
こんな訂正ありなの?
1 収入を費目間で振り替える?
「収入総額訂正なし」の訂正は、①個人寄付、②個人からの借り入れ、③国会議員政治団体主催のパーティー券収入、からの裏金と同額分を振り替えたもので、該当する国会議員は以下の通りです。
<個人寄付から派閥寄付に振替>
<個人借入金から派閥寄付に振替>
井上義行(2020年)、亀岡偉民(2020~2022年)、藤原崇(2022年)
<パーティー券収入から派閥寄付に振替>
衛藤晟一(2022年)、太田房江(2020年)、北村経夫(2020年、2022年)、西村康稔(2020年、2021年)、宮下一郎(2021年)
「単純訂正」は、収支報告書に記載せずに管理していた裏金の「不記載」ですが、「収入総額訂正なし」は収支報告書で報告されている収入が、実際は裏金だったという「虚偽記載」です。中でも、②の「個人からの借り入れ」としていたものは悪質です。②は裏金を受けた議員の政治団体が裏金分を当の議員個人からの借入金として計上し、訂正の際にそれを派閥寄付に振り替えたもの。議員個人からの借り入れということは、いずれ、その政治団体は借入金を議員個人に返済するはず。いわば、自分から自分に戻す形です。初手から違法な資金が国会議員個人の手元に合法的な装いで渡る前提で報告・記載していたことを示す虚偽記載で、悪質度が高いと言えます。
また、一般的な会計感覚からすると、どこの、誰の、どのような名目で得た収入かは会計管理上、非常に重要で、受取寄付が別名目の収入に振り替えられる、事業収入が寄付に振り替えられるなどは、常識的にはあり得ないです。訂正の方法を確認すると、政治団体は常識とは異なる管理をしており、それは「訂正すればよい」という運用が通用する世界と言わざるを得ません。
2 裏金を表のお金と裏のお金に分ける議員
三つ目の「複雑訂正」には、他の2パターンよりさまざまなバリエーションがありますが、一つの類型が個人寄付や国会議員政治団体のパーティー券収入として計上した裏金と、収支報告書に記載していなかった裏金を合算して、派閥政治団体からの寄付とするものです。該当するのは以下の国会議員です。
個人寄付から492万円振替、収支報告書未報告の裏金134万円を合算(2021年) |
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個人寄付から678万円振替、収支報告書未報告の裏金574万円を合算(2021年) |
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個人寄付から100万円振替、収支報告書未報告の裏金96万円を合算(2020年) |
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パーティー券収入2万円を振替、収支報告書未記載の裏金20万円を合算(2020年) |
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パーティー券収入298万円を振替、収支報告書未記載の裏金90万円を合算(2020年)、パーティー券収入490万円を振替、収支報告書未記載の裏金216万円を合算(2021年)、パーティー券収入58万円を振替、収支報告書未記載の裏金20万円を合算(2022年) |
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パーティー券収入20万円を振替、収支報告書未記載の裏金8万円を合算(2022年) |
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パーティー券収入78万円を振替、収支報告書未記載の裏金16万円を合算(2021年) |
この合算という処理は、実際は派閥主催パーティー券収入の裏金を、議員政治団体が主催したパーティー券収入として計上した虚偽記載と、個人管理した裏金の不記載の両方の訂正を行っていることになります。個人の手元に残す資金と収支報告書に記載する収入とに意識的に分けており、恣意性は高いと言えます。手元に多額の資金を残していた国会議員もおり、手元に残した意図やこうした資金をどのように使っていたのかがもっと問われるべきだろうと思われます。
3 資金が消えた訂正
複雑訂正には、訂正の趣旨が理解しがたいものもあります。大塚拓議員は2020年分について、「その他事業収入」から412万円減額し、派閥からの寄付として346万円を追加計上する訂正をしており、収入総額は66万円減少しています。収支報告書に記載されている事業内容も「その他の事業による収入」とのみ記載し、備考欄に書くはずの事業名称なども空欄。いったい何の事業収入だったのでしょうか。また、収入総額として減った66万円はどこに消えたのでしょうか。
橋本聖子議員の2020年の訂正は、個人寄付を707万円減額し、派閥からの寄付を289万円計上しており、2020年分の収入額は418万円減少です。しかし、前年からの繰越金を418万円増額する訂正を行っているので、収入総額(本年収入+前年からの繰り越し金)は変更なしとなっています。
橋本議員の場合、2018年から2022年に2057万円の裏金を作り、2020年以降の裏金金額は289万円のため、収支報告書の訂正により確認できない期間に多額の裏金を作っています。2019年までの裏金で手元に残った分を個人寄付として計上していたとも考えられますが、換言すれば2057万円のうち707万円しか収支報告書では確認ができず、1350万円が収支報告書では確認できない不明金ということです。
井上義行議員は2021年の訂正で、議員個人からの借入金を60万円減額し、派閥からの寄付として40万円を追加計上する訂正で、収入総額は20万円減少しています。個人からの借入金として計上した裏金は、いずれ政治団体からの返済で議員個人の手元に戻る資金であったということで、このことの問題は前述の通りです。理解ができないのが、減額した個人借入れの金額が、訂正して裏金金額を上回ることです。裏金分だけ減額して訂正をすればよさそうなものを、あえて裏金を上回る金額を訂正した理由は何でしょうか。
4 しれっと派閥寄付以外の不記載も訂正する
さほど複雑ではないものの、裏金を派閥からの寄付として訂正するついでに、他の不記載の訂正をしている議員もいます。
起訴された池田佳隆議員は2021、2022年の訂正で、派閥寄付の追加訂正に加え、自身の政治団体主催の政治資金パーティー券収入としてそれぞれ483万円、612万円追加する訂正を行っています。
吉野正芳議員は2020年の訂正で、裏金を派閥寄付として追加計上するだけなく、自身の政治団体主催の政治資金パーティー券収入として79万円追加する訂正を行っています。自分自身の政治資金パーティーでも裏金を作っていたということでしょうか。
衛藤征士郎議員は2021年の訂正で、派閥寄付分の訂正だけでなく、別の政治団体からの寄付金10万円分も追加計上しています。宮本周司議員も2022年の訂正で、同様に他の政治団体(世耕氏の政治団体「紀成会」)からの寄付金10万円分も追加計上しています。これらはいずれも、当該年の収入額が裏金と他団体からの寄付分を加えた額で訂正しています。寄付をした各政治団体の収支報告書に寄付先として記載があるため、訂正をせざるを得なかったものですが、今回の問題がなければ収支報告書で寄付金収入と扱われることのなかったものです。
山谷えり子議員は2021年の訂正で、派閥寄付の訂正だけでなく、書籍売り上げ154万円も追加する訂正を行っています。この書籍売り上げは、訂正以前はどこの収入として管理されていたものでしょうか。通常、書籍売り上げは課税されますが、政治団体の収入は非課税扱い。収支に計上したことで非課税のようになっていますが、どこの収入であったのかということは本来もっと問題にされるべきでしょう。
5 理解不能・意味不明の訂正も
意味が分かりにくい訂正が稲田朋美議員です。2021年、2022年と訂正をしていますが、裏金を派閥寄付として計上していることに加え、「派閥懇親の集いの会預り金」としてまとまった金額を計上しています。派閥寄付として訂正計上されたのはそれぞれ2万円、80万円ですが、預り金は92万円、22万円で追加計上しています。
預り金とは、通常は一時的に預かっているのでその後支払いに回るものです。「派閥懇親の集いの会」は派閥政治資金パーティーのことで、稲田議員の政治団体の支出では預り金を支払った形跡が見つけられず、派閥パーティーの収入に組み入れられているのかも不明です。この先、この収入はどのように処理されるのでしょうか。
また、稲田議員の場合、2022年に個人寄付として959,890円を追加する訂正を行っています。5万円超の寄付の不記載ではなく、個人寄付総額を増額した訂正で、これも収支報告書に記載していない手元資金(裏金)ということだろうと思われます。
収入訂正から見える、「自由過ぎる」お金の移動
訂正された収支報告書を確認していると、自由過ぎる資金の移動が政治団体では「訂正」により行われていることが分かります。
一般的な会計常識は、団体ごとに口座や現金の管理をしていて、会計期末時点での残高を確認する。収支の計算結果を照らし合わせて、合わないと決算ができない、ということではないかと思われます。しかし、政治団体の訂正を見ると、どこで管理されていたものかわからないが、大きな金額の資金が突然訂正で現れたり、あるいは資金の名目を自由に移動し、また、訂正と共に行方不明になる資金が存在します。
常識的な会計や資金管理ではなく、不透明資金により利得を得ようとする発想で動く世界と同じ文化を持つ政治団体が少なからずあると見受けられます。少なくとも会計期末での資金の残高確認と確定くらいはできないものか、確定したら訂正すること原則としてできないという、常識的な会計管理はできないのでしょうか。これも政治資金規正法を改正して義務づけられないと、できない(しない)ということになるのでしょうか。
以上で、収支報告書の収入の訂正については終わりです。続いて、支出の訂正についてレポートします。