2015年1月6日まで、行政文書管理ガイドラインの改正案に対するパブリックコメントが実施されています。
「行政文書の管理に関するガイドラインの一部改正案についての意見の募集について」(2015/1/6まで)
ガイドラインは、公文書管理法の下で各行政機関が策定する「行政文書管理規則」の統一基準に当たるものです。タイトルだけ見ると気づきにくいのですが、今回のガイドライン改正案は、各行政機関が保有している秘密文書に関する統一基準を定めるものです。これは、現行の統一的な基準となっている、1965年の事務次官等会議申し合わせ「秘密文書等の取扱いについて」を廃止し、今後は、公文書管理法体系の中で基準を設定することになることを意味しています。
なお、政府の秘密文書はずっと「極秘」「秘」と一部「機密」という区分で存在し、2009年からはこれに加えて特別管理秘密ができています。さらには、情報セキュリティの観点から機密の格付けをする仕組みも2005年からはじまっています。秘密の指定と管理・保全については、法律に寄らない仕組みが、過去ずっと存在をしています。
特定秘密保護法が施行されたことにより、特別管理秘密は廃止されました。ガイドライン案は、特定秘密を除く政府の秘密文書の統一基準ということになります。基本的には、1965年の事務次官等会議申し合わせを踏襲しつつ、特定秘密や特別管理秘密の考え方を一部取り入れたものとなっていますが、特定秘密とは根本的に異なるところもあります。
情報公開クリアリングハウスでは12月26日に勉強会を開催し、会員向けには解説版を配信していますが、どこが課題・問題かというお問合せをいただいていますので、簡単な解説概要版を掲載します。
参考にしてぜひパブコメを書いてみてください。
1 秘密の区分(第10-2(1))
ガイドライン案では「極秘」「秘」の2区分で秘密文書の指定をするとなっています。
「極秘」 秘密保全の必要が高く、その漏えいが国の安全、利益に損害を与える
おそれのある情報を含む行政文書
「秘」 極秘文書に次ぐ程度の秘密であって、関係者以外には知られてならない
情報を含む極秘文書以外の行政文書
これは1965年申し合わせと何も変わっていません。これに加えて、《留意事項》に「原則として」この2区分となっているため、例外も想定されます。具体的には、現在、外務省と内閣官房で確認できる「機密」という区分があり、各行政機関の判断で設けられる可能性があるということです。特定秘密を設けたので、本来ならば「機密」という区分はいらないはずで、「原則として」は削除すべきでしょう。
極秘・秘の定義は、いずれもかなりあいまいです。特定秘密が4分野23事項55細目が限定列挙され、「事項」を指定する仕組みです。一方で、秘密文書は「おそれのある情報を含む行政文書」というように、「行政文書」を単位に秘密指定をする仕組みになっています。具体的な項目で秘密を限定するのではなく、行政文書としての秘密性を判断するので、抽象的なレベルでの判断で指定ができるようになっているわけです。
まずは、「行政文書」として指定をするのではなく、「事項」あるいは「項目」を指定する仕組みとすること、行政機関ごとに秘密文書の対象とする事項の基準を設けること、の2点が意見として言えることでしょう。
2 秘密指定期間(第10-2(2))
「極秘」「秘」いずれも、期間を定めて秘密指定を行うことになっています。しかし、期間の設定は、「極秘」が5年以内の期間を設定し延長する、「秘」については期間の定めがないというように扱いが異なっています。秘密指定は文書の保存期間を超えて行えない(第10-2(3))となっているので、これが「秘」の指定期間の事実上の制限とはいえます。
「秘」文書は、文書の保存期間が短いものも想定され、かつ指定の要件も緩やかなので、「秘」を増やさないためには、これに対する抑止的対応があった方が良いと考えます。文書の保存期間の設定を考慮して、2年間を上限に秘密指定をし、延長するなどの仕組みとすることが、意見として言えることでしょう。
3 秘密文書管理簿(第10-2(5))
秘密文書の管理を行う簿冊についての定めです。現行制度でも、同種の管理簿が作成されている行政機関もあり、新しい仕組みというわけではありません。この「管理簿」には、①秘密文書の件名、②指定区分、③指定区分ごとの登録番号、④指定期間満了年月日、⑤提供先、⑥その他秘密文書の適正な管理を図るために必要な事項、が記載されます。
「管理簿」は、秘密文書としての管理のためのものなので、どこに配布・回付したか、コピーを何部作製したのかなどの管理も行うもので、記録としての管理を行うものではありません。そのため、行政文書の管理とリンクをしていないものになります。
最低限、まずは「行政文書としての保存満了年月日」や「保存期間満了後の措置(廃棄・移管)」くらいは、秘密文書管理簿に記載すべきでしょう。
4 秘密文書の管理状況報告(第10-2(7))
これまで、秘密文書の管理状況を報告したり取りまとめる仕組みそのものが存在しませんでした。特別管理秘密を除いて、各行政機関でどのくらい秘密文書を保有しているのかという件数も把握されておらず、実態が不明なので、ここは前進です。
ただ、秘密文書の管理状況として何を報告するのかは、明らかにされていません。
秘密文書管理簿の記載事項は報告をすること。加えて、①秘密指定期間の統計、②指定解除・指定期間満了の件数、③秘密指定区分ごとの指定状況、④秘密文書の廃棄件数、⑤秘密文書だったものの移管件数、などは報告すべきでしょう。
5 秘密指定の解除など(モデル要領第3-2(1))
秘密文書の指定解除、指定期間満了により解除とみなす(失効)との規定は、ガイドライン本文ではなく、各行政機関が定める秘密文書の管理に関するモデル要領に設けられています。
秘密文書の指定についてはガイドライン本文、指定解除についてはガイドライン本文に規定していないのは、おかしいと考えています。指定解除の規定は、ガイドライン第10に設けるべきでしょう。
6 秘密指定の表示(第10-2(6)、モデル要領第4-2(1)(2))
秘密文書には、「極秘」や「秘」を表示するというのは、これまでもこれからも変わりません。
ただ、ここは1965年申し合わせから後退したと言える部分です。申し合わせでは、「極秘」「秘」の表示に加えて、秘密指定期間を表示することになっていました。しかし、ガイドライン改正案では、この秘密指定期間の表示を求めないこととなっています。
このことは、秘密指定期間満了による解除との関係で問題があります。指定期間が満了すると解除とみなされますが、それは秘密文書に「指定解除」と表示することで、秘密文書ではなくなる扱いとなるようです。指定期間が満了しても解除と表示しないと、結果的に秘密文書としての扱いが継続され得ることになります。
ここは、秘密指定期間を表示するとする、1965年申し合わせの水準は維持すべきでしょう。
なお、特定秘密は秘密指定期間を表示しないこととなっており、秘密指定期間の延長の仕組みなどを考えると、その方が行政的な負担が少ないということのようです。秘密文書も同様の考え方を取るようですが、検討の余地のある問題であると考えています。
7 行政文書としての管理と秘密文書の管理
この両者の管理は、別物としておこなわれています。
特定秘密は、既存の仕組みを変えずに、特定秘密を含む行政文書ファイルを一覧化して、年1回、独立公文書管理監に提出することとなりました。特定秘密と行政文書の管理は、一応つながり得る仕組みになりました。
秘密文書にはこのような仕組みがありません。前述の3で示した意見が、行政文書の管理と多少なりともつなげる方法ではありますが、もともとは、行政文書ファイル管理簿という、行政文書ファイルを管理するための仕組みに、秘密文書の管理が含まれていないことが課題です(行政文書ファイル管理簿は誰でもアクセスして検索できるものとして提供されています)。
行政文書ファイル管理簿については、今回のガイドライン改正案に含まれておらず、また公文書管理法、その施行令等の改正が必要になるものになります。行政文書の管理と秘密文書の管理がリンクする仕組みを設けるべきという意見を今回は述べておいて、実際には少し先を見据えて取り組む課題と理解するとよい部分です。
このほかにも、細かく見ていくといろいろ意見が言えるところがあると思います。上記を参考にして、パブコメを書いてみてください。(文責 三木由希子)