【コラム】番号法案が映し出すもの(2)―説明されることとされないこと



 
 衆議院の解散による廃案となった「マイナンバー法案」は、各地で政府主催のシンポジウムが開催され、その際に使われた説明資料がある。

 自公政権になり、マイナンバー法案は修正がされて「番号法案」と呼ばれるようになったが、この番号法案についての市民向け説明資料というものがない。あるのは、3月1日に公開された「番号制度導入によるメリット」という資料だけだ。

 http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/bangoseido/pdf/250301merit.pdf

 これのほかに、番号法案が提出されてから公にされた資料は、「番号法案についての都道府県・指定都市担当課長説明会」のものだ。これは、実務者向きだ。

http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/bangoseido/houansetumei250321/gijisidai.html

 番号法案になってもマイナンバー法案として政府がシンポジウムで配布し、公表している資料しか一般向けのものは見当たらない。

http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/mynumber/symposium/chiba/siryou3.pdf

 だから、このマイナンバー法案時代の資料を元にしなければ、政府がどういう前提で番号制度というのを市民に説明をしてきたのかが示せない。政権が変わったとはいえ、どういう前提で法案が議論されているのかが良くわからない。そういう状況だ。

 マイナンバー法案の時の資料では、どんな説明がされてきたのか。

 番号法案は、個人番号を主に年金・労働・福祉・医療・その他社会保障分野・税・防災に利用するものだと政府は説明をしてきている。

番号利用範囲

 上図はマイナンバー法案の時のものなので、条文番号が変わっていて、番号法案では第9条がそれにあたるが、これは別表1というものに掲げられた利用範囲だ。しかしこの別表1以外にも、番号は利用ができる。第19条5項で「第19条第11号から第14号までのいずれかに該当して特定個人情報の提供を受けた者は、その提供を受けた目的を達成するために必要な限度で個人番号を利用することができる」と定められているからだ。

 19条11~14号ではどのようなことに個人番号等を利用できると書いてあるのかというと、次のようになっている。

(11)特定個人情報保護委員会に提供するとき
(12)国会が国会法、議院における証人の宣誓・証言等に関する法律の規定により行う審査・調査、訴訟手続きそのほか裁判所の手続、刑事事件の捜査、犯則事件の調査、会計検査院の調査、その他政令で定められる公益上必要があるとき
(13)人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合
(14)その他、これらに準ずるものとして特定個人情報保護委員会が規則で定めるとき

 おそらく(12)のような使われ方を政府はこの間、正面から説明をしてきていないはずだ。制度についてまとまった資料を見る限りは、見当たらない。

 また、番号法案は利用範囲を別表1で、情報提供ができる範囲を別表2で定めるという、とても分かりにくい作りになっているが、年金・労働・福祉・医療・その他社会保障分野・税分野は、別表1、2の範囲で示されているものでの利用になる。いわば番号法案では王道ともいえる使い方だ。この別表は、法律の一部なので、王道の利用については、国会による法改正を経ないと、改正ができない。

 しかし、別表以外で個人番号等を利用する(12)と(14)は、政令や規則でその利用範囲を定めることができるようになっている。正面から説明がされ、議論されてきていない個人番号等の利用範囲は、法律事項ではなく政令・規則で決められるという、何ともねじれた状況ができている。

 このことを指摘すると、「聞いていない」「知らない」という反応があまりにも多い。ある意味それは当たり前だ。このような個人番号の利用は、過去の番号法案のもとになる社会保障・税番号大綱では、そのかけらすら書かれていない。立法化過程で立ち現れたものだからだ。

 番号制度の導入により、番号で個人情報が名寄せされるなどしてプライバシー侵害につながるという懸念に対しては、政府はマイポータルで自分の情報のアクセス履歴を確認できるようにすると説明をしてきた。自分で個人番号等の使われ方を監視できることで、プライバシー侵害への懸念を払しょくするだけでなく、市民も番号制度に参加をするというような構図を描いているようである。

マイポータル

 しかし、これも良いとこ取りの説明だ。

 番号法案では、個人番号での情報連携を情報提供ネットワークシステムというものを利用して行うとしている。この情報提供ネットワークシステムを通して個人情報の連携をするので、ここにアクセスログが残るので、これを本人も確認できるようにするという。

 しかし、この情報提供ネットワークシステムを通しですべての個人情報の連携が行われるわけではない。このシステムを利用して個人情報の連携をしなければならないのは、別表2に定める行政手続のみなのである。そして、システムにアクセスログの記録を義務付けているのも、別表2の行政手続のみである。

 マイポータルができても、自分の情報のアクセス記録が確認できるのは、別表2の行政手続分野だけであるということだ。

 では、別表2以外での個人番号を含む個人情報の連携はどのように行われるのか。情報提供ネットワークシステムを使うがアクセスログは本人に開示しないのか、システムが別表2以外でどのように利用されるのか、本人がアクセスログが確認できない範囲の個人情報の利用は、どのように監視され、管理されるのか。こういうことは、法案を見てもわからない。しいて言えば、第三者機関として設置される特定個人情報保護委員会が、監視機能を発揮することはできるかもしれない。

 政府の立場からすると、これらは「例外的な利用」「主な個人番号の利用ではない」「説明が細かくなりすぎる」など、いろいろな言い訳はあるだろう。しかし、プライバシー侵害の懸念は、まさに政府が説明を正面からしてこなかったところにこそあると言うべきだろう。こういう細部こそ、政府は説明を正面からしてそれでもなお番号制を創設することを言うべきだ。

 批判の多そうな部分は説明をしないで、法案さえ通ればよいというやり方自体が、信頼されない政府を象徴しているともいえる。

 これらは、法案をよく読めばわかることではある。しかし、法案は政府の結論であって、政府が結論に至るまでに批判されるであろう部分も含めて明らかにする必要がある。

 私たちは、すべてを説明されるわけではない。このことを肝に銘じておかなければならない。

(三木 由希子)