【コラム】番号法案が映し出すもの(1)―政府は信頼されているのか?


 
 番号法案が衆議院で審議中で、来週中には法案が衆議院を通過するかもしれない、という話も耳に入る。

 番号法案は、社会保障・税分野を中心に共通番号(個人番号)を導入して、徴税・社会保障・福祉を中心とした行政サービスの効率化などを行うというものだ。個人番号は、すべての人に付番され、そのことで、これまでバラバラに管理されていた個人情報を容易に集約できるようにし、本人も集約的に自己情報が確認できるとされている。

 番号制をめぐっては、個人情報保護、プライバシー保護の観点から番号制導入に反対・慎重な立場から、便利になるから歓迎という立場、さらにはもっと広く使えて一つの番号で官民両方の情報を一括管理できるようにすべきという立場までさまざまな意見がある。

 意見の違いの背景には、それぞれの思想や信条、現実に向き合っている問題・課題、政府に対する考え方など、さまざまなモノの見え方の違いがその要因になっている。この違いは、当たり前のことだ。みんなが同じものしか見えない社会、あるいは同じものしか見ようとしない社会ほど危ういものはない。

 しかし、世の中には意見が分かれるものはあえていろんなことを見えないようにして決めてしまおう、という力も働く。番号法案にも、そういう側面が大いにある。

 私達の個人情報を、自治体や国はさまざまな形でもっている。戸籍制度のある日本では、相当にセンシティブな情報も公的な機関が管理をしているのは事実だ。これらの情報は、所管によって縦割りで利用・管理がされてきたことで、さまざまな手続時に不便に感じる市民がいる一方で、個人情報が横に連携されたり集約されることが制約されているという、微妙な安心感にもつながってきた。

 それが、番号制度の導入により、個人情報の横の連携や連携により取得した情報が番号とともに集約されるようになる。微妙な安心感は意味がなくなり、個人情報がシステム的に横につながる時代になるということだ。番号制度を導入するということは、何となく安心ではなく、個人情報を利用・管理する政府や自治体が裏付けをもって信頼できる、そういう制度、仕組み、組織運営のあり方が求められる。そこには、市民が自治体や政府に対して参加・監視する機能を強化することも含まれている。

 しかし、市民の政府に対する信頼は非常に低い。OECDの”Government at Glance 2011″という報告書がある。その中で、ギャロップ社が行った調査結果が引用されている。以下のグラフがそれで、政府への信頼と国のリーダーに満足をしているかの相関関係を表している。これを見ると、日本の政府への信頼度、国のリーダーへの満足度は、極めて低い。

政府に対する信頼度

 Government at a Glance 2011(OECD)

 日本で顕著なのは、政府への信頼が低いことと同時に、雇用の中に占めるパブリックセクタ―の割合が非常に低いということである。

労働市場でのパブリックセクタ―の雇用割合

 公務員が相対的に少ないと言える日本で、政府の信頼も低いということは、何かが間違っていると考えるべきだろう。その何かには、問題・課題を正面から議論しないことだったり、その結果不誠実な結果をたびたび招いたりというが含まれるのではないだろうか。
 
 しかし、いずれにしても、政府に対する信頼が非常に低い中で、個人番号制度を導入し、個人情報の横の連携を始めるということが現実であることは皆が理解をしておくべきだろう。

 このような理解があるかどうかは別にして、番号制度推進論者は政府に対する信頼が非常に低い中で、広範な行政分野と民間利用もしているスウェーデンと同じような番号制度を導入すべきだと主張をしている。経済界などにも、こうした声は根強く、旗振りをする人が後を絶たない。

 番号制度の検討に当たって参考にされたのはスウェーデンだけでなく、アメリカ、カナダ、ドイツ、オーストリア、イギリス、フランス、韓国などが検討過程の資料で確認できる。

 しかし、政府に対する信頼が日本より低い国は一つもない。日本の政府よりは自国民から信頼されている。信頼されているからプライバシー侵害などの問題がないとは言わない。信頼の背景にあるのは、政府に対する市民の参加や監視、政策決定への市民の参加度合など、政府が勝手に何かをすることに対する市民側からの抑止力がそれを成り立たせているのではないかと思う。問題・課題を正面から議論する、そういう姿勢が政府にも議会にもあれば、政府に対する信頼も少しは違うだろう。

 しかし、日本の番号法案は、問題・課題を正面から議論をすることに最初から逃げている。2012年11月の衆議院解散で廃案になったマイナンバー法案から、自公政権に変わり法案が修正されて再提出されたのが番号法案だ。この法案で修正され追加されたことが、法律施行後3年を目途に、行政分野での番号利用の拡大だけでなく、行政分野外でも番号の利用を拡大することを想定した規定を設けたことだ。法案では、番号制度導入とともに作られるさまざまな仕組み・システムは、利用範囲の拡大を想定した施策を講じることが義務づけられている。

 個人番号の利用範囲を拡大するには、法律の改正が必要であり、番号法案では国民の理解の下でそれを行うと書かれている。しかし、政府や国会という場で国民の理解を得るというときは、いかに自分たちが進めたい方向が良いかに拘泥した情報公開と、望ましい結論を得るために集めた有識者で正当性が演出されることと同義だ。

 民間も含めた個人番号の利用であったり、政府が信頼されているのかという問題・課題を正面から議論せずに、番号法制が通れば何とでもあとはできる、というのが今の番号制度をめぐる展開だ。このやり方が、信頼されない政府をよく象徴している。

(三木 由希子)