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イラク戦争検証報告書情報公開訴訟 東京地裁判決について



 2018年11月20日、当法人を原告とするイラク戦争検証報告書情報公開訴訟の東京地裁(民事38部 朝倉佳秀裁判長)判決がありました。

 当法人の敗訴で、現在控訴のための準備中です。敗訴とはいえ、訴訟の途中で外務省は全部不開示から2回決定変更を行い、報告書を部分公開しています。すでに報告書本文が17ページであること、どのような項目の検証が行われたのかは明らかになっています。さらに、報告書の公開の拡大を目指し、係争します。以下、判決に関するコメントと、これまでの経緯です。

 なお、判決は全部で223ページ、双方の主張が別紙でまとめられており、判決本文は103ページです。本文の方を掲載しました(なお、102ページ目の裁判官の名前等を黒塗りにしています。自署押印なので自主規制です。103ページは三人目の裁判官の自署押印なので削除しています)。


コメント
 
 東京地裁判決は、非公開判断を妥当とするのに「推認」という言葉を70カ所以上で用いています。情報公開訴訟では、裁判所だけが非公開文書を実際に見て審理をするインカメラ審理の手続がないため、被告国の主張を元に非公開部分に記載されている情報類型、それが公になることの支障を判断することになるという限界があります。この限界は、とりわけ情報公開法5条3号では顕著に現れますが、今回の判決が非常に明確にこの問題が現れたものと受け止めています。

 情報公開法5条3号は外交防衛情報に関する非公開規定ですが、高度で専門的な判断を要するという理由から、行政機関に広い裁量を他の規定に比べて認めており、訴訟でも他の非公開規定の適用は明確に被告国に対して立証席にが負わされ得るのに対し、5条3号は公にすることによる支障がないことの立証責任が原告に転嫁される判決がこれまでも出されています。そのため、裁量権を濫用して過剰な非公開が維持されているのではないかということが、情報公開法制定以来懸念されてきています。

 本件訴訟でも、当初全部非公開から報告書見出しのみ公開する決定変更、その後内容も一部公開する決定変更が行われましたが、2度目の決定変更で公開された内容は、公知の情報がほとんどで、外交防衛上の支障が生じるような内容ではなかったため、他の非公開部分でも裁量権濫用が強く疑われました。しかしながら、裁判所は原告側の訴えを退けました。

 原告の訴えを退けるにあたり、原告側からの公知や公表情報、外国政府による公表されているイラク戦争検証報告書との共通項目、日本国内でアクセス可能なさまざまな文献の記述などから公にすることによる支障がないことの主張に対し、同一の記述、情報、内容であるという事実がないとの認定がされました。裁判所も原告も非公開文書を見ていないので、どちらも事実を具体的に確認することができないという点では、やはりインカメラ審理がないことが、被告国に圧倒的に有利な状況で、裁判所が踏み込んだ具体的判断ができないという限界が顕著です。

 また、裁判所の判断を支えているのは、イラク戦争という事柄の性質を「対イラク武力行使が国際政治上及び各国安全保障政策上機微な問題」とする認定です。イラク戦争自体が機微な問題なので、これに係る情報の非公開部分を公開することに支障があるという枠組みが、判断のあちこちで見られます。しかし、イラク戦争は大量破壊兵器の存在を理由に始まり、のちに大量破壊兵器がないことが明らかになり、国際社会では大きな問題になりました。イラク戦争が「機微」な問題となっているのは、イラク戦争を実行し支持した国々にとってはそうなのかもしれませんが、反面、強く説明責任が求められるものでもあります。このことは、イラク戦争が開始されてから15年以上たつ今でも変わりがなく、また日本の安全保障が変質している今だからこそ、より求められていると言えます。

 したがって、当法人は東京高裁に控訴し、係争することといたしました。引き続き、ご支援のほどをよろしくお願いいたします。


経緯

1 裁判の概要

原告 特定非営利活動法人情報公開クリアリングハウス(理事長 三木由希子)
被告 国(処分庁は外務省)
争いの対象 2012年12月に取りまとめられた外務省によるイラク戦争検証報告書の不開示決定
提訴日 2015年7月16日
適用規定 情報公開法5条3号(外交防衛情報)、5号(審議検討情報)、6号(事務事業情報)


2 訴訟の経過

2015年1月12日 外務省に「「対イラク武力行使に関する我が国の対応(検証結果)」報告書全文、検証実施のために用いられた文書、インタビューの記録」の開示請求
2015年2月12日 外務省が一部開示決定
2015年4月13日 審査請求
2015年4月17日 一部決定の内容に誤りがあったとして外務省が決定変更通知
2015年7月16日 東京地裁に提訴。訴訟の対象は、検証報告書、その案、インタビュー記録などで、いずれも不開示
2015年10月20日 第1回期日
2016年3月30日 外務省が全部不開示から決定変更し、一部開示。報告書の見出しなどごく一部が開示(別添報告書のうち、四角で囲んである部分のみ公開)
2016年12月13日 訴えの変更の申し立て(訴訟の対象となっている文書の一部を対象から外す)
2017年3月17日 訴えの変更の申し立て(報告書のみに訴えの対象を絞る)
2017年10月31日 外務省が決定変更し、一部開示部分拡大(別添報告書参照)
2018年1月12日 訴えの変更の申し立て(報告書のうち開示された部分を除く請求に変更)
2018年6月29日 結審


3 訴訟の背景

(1)外交・防衛に関する情報の非公開規定の問題

 情報公開請求の背景には、特定秘密保護法の制定がある。特定秘密の指定が問題になる中、一方で、情報公開法の下で外交防衛情報に幅広い行政裁量による非公開判断を認める規定がある。この分野は情報公開が進まず、歴史的検証に委ねるという文脈で非公開を正当化する傾向が顕著であり、この問題にどう取り組むのかという問題意識が端緒だ。
情報公開法の定める非公開規定の中でも外交・防衛情報に関するもの(情報公開法5条3号)の特徴として、公開・非公開には高度な判断が必要という理由から、行政に広い判断裁量を認めているだけでなく、他の非公開規定では求められる公開することによる利益(公益)と非公開とすることで保護される利益の比較衡量が明確に求められていないというものがある。結果的に、外交・防衛分野は、裁量権が濫用され過剰に非公開が維持されるのではないかという懸念が立法当時からあり、現に情報公開が進んでいるとはいい難い状況にある。

(2)なぜイラク戦争検証報告書の情報公開なのか
 外交・防衛に関する情報は時間の経過とともに公開されやすくなるという一般的な性質があるため、歴史的検証の重要性が特に説かれる分野だ。しかし、外交・安全保障に関する大きな政策変更や国際的動向・情勢などの変化のサイクルの動きは早くかつ大きくなっており、政府の説明責任も同時代的に果たされる必要が高くなっていると考えている。一次情報の公開が直ちに困難だとしても、重要な案件の検証を行いその結果を公表することで、政府に一定の説明責任を果たさせることが、一つの取り得る方法だ。
 しかし、日本において外交・防衛分野で検証を行ったことが明確にわかっているのは、請求当時はイラク戦争に関するものだけであり、しかも報告書本文は非公開とされていることから、これを手掛かりとして情報公開にとりくむことになった。また、イラク戦争に関しては、情報機関のあり方についての独立した検証を行ったアメリカ・オーストラリア、日本と同様にイラク戦争を支持したことについての検証を行ったオランダ、そして複数回検証を行い直近の検証ではイラク戦争に関する意思決定や軍派遣期間中を含む包括的な検証を行ったイギリスという例があり、いずれも検証報告書は数百ページ(イギリスは200万語以上)でかつ、公表されている。
 また、イラク復興支援として自衛隊が派遣されたが、この派遣が初めての戦闘終結について疑義がある状態での派遣で、その後の安全保障法制などにつながる一つの契機となっていることから、検証報告書の情報公開は公益性が高いと言える。一次情報そのものではないので公開しやすいはずであり、換言すれば報告書が公開できなければ一次情報の公開もままならないということでもあるので、あえてイラク戦争検証報告書の情報公開請求と、不開示に対する訴訟を提起することにした。

(3)イラク戦争検証について
 民主党政権下で外務省におけるイラク戦争検証を行うことを外務大臣が表明。2011~2012年にかけて、外務省における当時の対応が適切であったかのみ検証が実施された。イラク戦争を支持したことの妥当性などは検証対象となっていない。自公政権への後退直前の2012年12月21日に検証結果が取りまとめられ、概要のみ公表された。
 外務省の行ったこの検証以外に、政府でイラク戦争に関する検証は行われていない。検証ではないが、復興支援としてイラク派遣された陸上自衛隊の成果と教訓を陸上幕僚監部がまとめた「イラク復興支援活動行動史」は、特定秘密保護法案の国会審議中に公開されている。また、2018年4月にイラク自衛隊派遣の日報が一部公開されている。


4 訴訟の進捗

(1)全面不開示から一部開示へ2回決定変更
 報告書などは当初全部不開示でどのような項目が含まれているかすら明らかでなかったが、第2回口頭弁論で、被告国が「本件各文書のうち不開示情報に該当しないとの判断に至った部分については、今後、決定変更を行うなどして開示する予定である」と表明。その結果、一部決定変更がされ、報告書の前文と小見出しが公開された。その後、見出しごとにある程度情報類型化して非公開情報該当性の主張を被告国が行い、反論したほか、司法審査のあり方や情報公開法5条3号の解釈論についての争いがあった。
 争う中で、不開示部分には公表や公知の情報がかなり含まれている可能性が疑われ、一部開示されたことで報告書本文が17ページしかないこともわかり、詳細な記述がそもそも無理な分量であることが推測できた。加えて、国が抽象的な非公開該当性の主張をしていないようであることなどから、2017年3月の口頭弁論で、原告側から一部開示範囲の見直しの検討を被告国に要求するほか、3月、8月と準備書面で原告側が詰めた反論をした結果、被告国が2017年9月5日の口頭弁論で、開示範囲がさらに広げられるか否か検討したいと表明。2017年10月31日付で外務省が決定変更。報告書本文の一部を公開(面積で3分の1弱)するに至った。

(2)訴えの変更
 提訴時点では、報告書、報告書案、ヒアリング記録などの不開示を訴訟対象としていたが、1回目の一部開示決定で、報告書案には重複が多そうであることなどが推測されたが、どの時点の案文なのかなどについて被告国が説明をしないため、公表されている検証結果概要の案文の不開示に関する争いのみ、1回目の訴えの変更で取り下げた。その後、係争する中で報告書で公開する内容がほかの文書の公開範囲と連動することから、報告書のみに訴訟の対象を絞り、さらに被告国が一部開示範囲を広げたことから、新たに開示された部分を訴訟の対象から外す訴えの変更を行っている。


5 弁護団

 この訴訟は、公益社団法人自由人権協会の支援事件であり、協会所属の弁護士により弁護団が構成されている。

 秋山幹男(弁護団長)、二関辰郎、牧田潤一朗、古本晴英、出口かおり
 藤原大輔、小野高広





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