[意見・提案] 森友学園交渉記録の廃棄に関する声明

 5月23日、財務省から報告された、森友学園交渉記録が国会答弁に合わせて廃棄していたという問題について、国会答弁後すぐに交渉記録を情報公開請求し、現在、情報公開訴訟を係争している原告の立場から、声明を発表しました。

 PDF版 https://bit.ly/2x6ZCJY


2018年5月24日

森友学園交渉記録の廃棄に関する声明

特定非営利活動法人情報公開クリアリングハウス
理事長 三木 由希子

 当法人は、公的機関における知る権利の擁護と確立を目指して活動する特定非営利活動法人です。

 2017年2月24日の衆議院予算委員会で、財務省の佐川宣寿理財局長(当時)が、面会等の記録は保存期間1年未満であり、事案が終了しているため記録が残っていない、と答弁したことを受け、当法人は、同月27日に近畿財務局と大阪航空局、3月2日に財務省に対してそれぞれ、打合せ・協議等に関する記録の情報公開請求を行いました。いわゆる交渉記録が不存在と決定されたため、同年5月19日に東京地裁に不存在決定の取り消し等を求めて訴訟を提起し、現在、交渉記録の存否をめぐり係争中です。

 財務省はこの5月23日になって、これまで廃棄済みとしてきた森友学園との交渉記録を国会に提出しました。提出された交渉記録は、行政文書ファイルには保存されておらず、手控えとして職員が紙媒体で保管していたもの、個人のパソコンの端末に残されていたもの、押収されていた文書の写しを入手するなどしたものだと財務省は説明しています。行政文書として発見されたものはないという説明です。

 しかし、合わせて、2017年2月下旬以降、国会で廃棄したとの答弁との整合性のため、当時保管されていた交渉記録の廃棄を進めていたことが認められた、とも説明しています。国会答弁に実態を合わせるために行政文書の廃棄をするという考えが、財務省内で通用しているならば、公文書管理も情報公開ももはや機能しません。この行為が意味することは、統治構造そのものへの挑戦、あるいは否定というにほかなりません。

 また、ここでいう交渉記録が行政文書として保管されていたものならば、当法人が情報公開請求をした時点では存在していたことになります。国会での答弁でも虚偽の説明がなされたとともに、情報公開請求に対しても存在していた行政文書を不存在とし、さらに廃棄していたことになります。情報公開請求を受け付けて以降に廃棄することは、公文書管理法施行令9条1項4号の規定に明らかに違反する違法行為です。

 これは、防衛省における南スーダンPKO日報問題と構造を同じくしています。南スーダン日報は、情報公開請求時に行政文書として存在していたにもかかわらず、個人文書と内部で判断して不存在決定し、対外的には1年未満の保存期間であるため、廃棄したと説明してきました。のちに問題になると、日報を陸上自衛隊内等で共有するための掲示板から削除し、さらに陸自内での日報の廃棄を進めました。

 森友学園交渉記録も、情報公開請求時には行政文書として存在していたであろう文書を、1年未満保存で廃棄済みであると説明し、その裏で請求対象文書である交渉記録の廃棄を進めていたことになります。

 東京地裁で係争中の裁判で被告の国は、交渉記録が過去に存在していたこと自体、明確に認めていません。主張しているのは、保存期間が1年未満の行政文書は廃棄の記録が残らず、仮に過去に存在していたとしても廃棄済みであるということです。

 具体的には、交渉記録の不存在について、2016年6月の契約締結で事案が終了しており、かつ交渉記録は事案終了後に廃棄するものなので、開示請求時点では、「すでに廃棄されて不存在であると合理的に推測される状況にあった」とし、不存在としたことは適法と主張しています。廃棄の時期については、廃棄の記録が載っていないから不明としつつ、原本である紙文書は、本省で2016年9月に、近畿財務局では2016年6、7、8、10月に実施した溶解処理の際に廃棄されたと「合理的に推測される」としてきました。

 また、廃棄済みという前提で、「財務省及び近畿財務局において、このような面会の記録等は、実際にどのような文書がどの程度作成され、どの範囲で担当者間で共有されていたかを、現時点においてはつまびらかにすることはできない」として、どのような交渉記録を作成していたのかを明らかにすることもできないとしてきました。

 情報公開請求を受けて交渉記録の探索をどのように行ったかについては、原告である当法人側からの求釈明の申立てに対して、2017年2月22日頃に国会議員からの資料提出を求められ、財務省と近畿財務局で個別に交渉記録を探索したが、存在しないことを確認していたことを挙げて、不存在決定に違法はないともしています。

 情報公開請求に対する不存在決定を争う訴訟は、対象となっている行政文書が存在していることの立証責任が、原告に転嫁されます。沖縄返還密約情報公開訴訟が、行政機関が過去に存在した文書について廃棄したことの反証が必要であるとされつつも、現に存在することの立証は原告側に求められ、最高裁で敗訴したことが象徴するように、情報公開制度が制定されて以来、文書の存否は原告側の立証責任という枠組みで争われてきました。

 それが原告にとっては容易ではないことは明らかであり、係争中の裁判では、交渉記録が存在することを外形的な事実から主張した原告側に対し、被告の国は、「原告が本件売買契約成立までの当事者間の交渉、協議等に関する内容を記録した文書を廃棄することは合理的に想定し得ないとする根拠として述べるところは、いずれも前提を欠き、何ら根拠にもならないというほかない」と主張していました。

 今般明らかになったことは、こうした国側の主張自体が前提を欠いているであろうということです。文書の存否の立証責任が原告にあることが、国による情報隠ぺいと責任回避を容易にするという問題が、改めて白日の下にさらされました。公文書管理法及び情報公開法の課題として、違法に行政文書が廃棄されたものの、個人文書として保管されている場合に、それを行政文書としなければならない義務を課すことや、文書不存在の立証責任のあり方など、制度の問題として解決すべき問題があります。

 現時点で、財務省は国会に提出した交渉記録は行政文書として存在していたものではないとしつつ、交渉記録の廃棄はそれに係る国会答弁(2017年2月24日)以降であることまでは認めています。しかし、この廃棄された交渉記録が一体どのようなものであったのか、いつからどのように廃棄されたのか、どのような管理がされていたのかなどは明らかにされていません。財務省は、今後、調査を行い、その結果を報告するとしています。事実関係を誠実に明らかにすることは、財務省の最低限果たすべき責任です。

 当法人は情報公開訴訟の原告として交渉記録の存否を法的に争ってきましたので、財務省の対応が今後の訴訟がどのような争いになるのかを左右します。事態の推移を注意深く見ていくとともに、国が事実関係を明らかにすることを訴訟を通じて追求していきます。

以上

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