[レポート]各行政機関は電子メールの管理をどのように行っているのか

 

※会員向けに発行しているメール版情報公開DIGEST第33号(2018/2/21発行)から一部編集して転載


 電子メールの管理が問題になっています。

 情報公開クリアリングハウスでは、日常的な通信手段になっている電子メールがどのように管理されているのかについて、ルール上の整備・対応状況を確認するため、2015年に各行政機関に情報公開請求し、資料収集していました。そこで、まず初めに、電子メールと行政文書管理についてどのような問題・課題があるのかをまとめ、続いて2015年段階(現在も大きく変わっていないと思われる)での電子メールの取扱いについて、各省庁の状況をまとめることにします。

 なお、行政文書管理ガイドラインが12月に改正され、電子メールの取扱いについても一定のルールが設定されました。これを受けて現在、各省庁内の内部運用ルールが整えられていますので、近い将来、内部規定が変わるという前提でご覧ください。また、電子メールをメールサーバから自動削除しているとした国交省、財務省、厚労省、法務省、防衛省、国税庁のうち、国交省、厚労省は関連規定がないか不開示で内容確認ができていません。

はじめに

 各行政機関の電子メールの取扱いは、もっぱら情報セキュリティの観点から規定されています。「政府機関の情報セキュリティ対策のための統一基準」など政府の情報セキュリティ関連文書には直接的に電子メールの整理について記述はないのですが、各省庁のネットワークの運用や端末利用に関する細則等の中で、セキュリティ対策の一環で、電子メールの整理や扱いが記述されていることがあります。関連する規定等がある省庁分は次の通りです。

環境省

 「環境省ネットワークシステム管理細則」は、「メールサーバ上に割り当てられたメールボックスは利用者ごとに上限があり、これを超えるとメールが利用できなくなるため、定期的に職員端末等へのダウンロードをするなど、適切な管理を実施すること」としており、メールサーバからメールを定期的にダウンロードして削除することを求めています。また、「Microsoft Outlook 2010操作説明書」では、メールソフトの設定で受信と同時にメールサーバからメールを削除する設定方法を説明しています。環境省は、メールサーバにはメールは残っておらず、職員個人に貸与されたパソコンにメールがたまっている状態であると理解できます。このメールをどう取り扱うかは特に定めがなく、内容的に行政文書に該当する1年以上の保存期間のメールを保存しているのであろうと思われます。

公正取引委員会

 公正取引委員会はグループウェアを利用しており、「庁舎内における端末利用手順書(端末利用者編)」によると、職員一人当たりのメールボックスの容量が非常に小さいようです。民間サービスのメールボックスは5GBや10GBが多いので、非常に容量が少ないので、メールサーバ上にメールを長く残しておくことはほぼ不可能な情報環境です。手順書では、「端末利用者は、サーバの個人別電子メールボックスに格納される電子メールの保存期限や最大容量、バックアップ状況等を考慮の上、適宜、電子メールボックスから不要な電子メールを削除すること」「端末利用者はサーバの個人別電子メールボックスに格納されている電子メールの保存期限や最大容量、バックアップ状況等を考慮の上、適宜、クライアントPCへの保存を行うこと」と、メールサーバ側の整理、保存が必要なメールはパソコンに保存することを求めています。

 また、「電子メールサービス提供ソフトウェアのセキュリティ維持に関する規程」では、「情報システムセキュリティ管理者は、メールボックスの容量がサーバ装置運用に問題が生ずるほど大きい場合には、メールボックスの整理を行い、サーバ装置の正常な運用を確保する」ともしています。職員がメールの整理を怠り負荷がかかったときは、管理者が整理することになり、この場合は行政文書か否かという選別より、サーバの管理運用が優先されると理解できます。

 電子メールの行政文書としての管理については、「行政文書ファイル作成・整理マニュアル」で、「電子メール等のシステムを利用して送受信された電子メールは、職員が職務上、作成又は取得して、組織的に利用されているものであることから、原則として、行政文書である。また、電子メールは、原則として、非登録行政文書とするが、必要な場合は、登録行政文書とすることができる」としており、ここでは電子メールを原則として行政文書として位置づけています。ただし、前述した「非登録行政文書」とするとしていますので、事実上、組織的な管理が明確にされていない行政文書という扱いで、随時廃棄可能なものになっています。

文部科学省

 文部科学省はメールサーバ上のメールボックスの容量が民間サービスと比べて小さく、「行政情報システム利用手順書」によると、メールは「職員用端末に自動で保存されるが、必要に応じ、メールのバックアップ、不要なメールの削除を行うこと」とあるので、基本的にはパソコンから送受信しているものの、受信後にもメールサーバにもメールが残っている場合がある運用を行っているようです。文科省は、メールサーバからの自動削除を行っていないとされていますが、パソコンでのメール受信によるサーバ側からのデータ削除設定をしているか、あるいは職員が各自手動で整理をしているかは、不明です。

財務省

 財務省は自動削除をしている省庁の一つで、「財務省行政情報課LANシステム等に係る情報セキュリティの確保のための実施細則」で「各利用者のメールボックスに保存されている電子メールの保存期間は■■、容量は■■■■■■■設定を行うこと」としていました(■部分は不開示)。この不開示部分の保存期間が60日間であることが最近判明したところです。同細則では「電子メールクライアントから電子メールサーバへの電子メールの受信時及び送信時に主体認証を行う機能を備えること」ともしていますので、パソコンからメールの送受信をしていることがわかります。

 電子メールの扱いは、「財務省行政情報課LANシステム取扱規則」で「職員等は、必要な電子メールは外部電磁的記録媒体に保存する等の措置を講じ、読み終えた電子メールおよび必要がなくなった送受信記録等は速やかに削除しなければならない」とし、基本的にはメールだけでなく送受信記録等も「速やかに削除」を義務付けています。この通りだとすると、削除を基本にメールの管理を行っていると理解できます。

原子力規制委員会

 原子力規制委員会は「原子力規制委員会ネットワークシステム運用管理細則」で、「メールサーバ上に割り当てられていた各利用者のメールボックスは利用者ごとにサイズの上限があり、これを超えるとメールが利用できなくなるため、■■■■■■をするなど、適切な管理を実施すること」としていますが、メールの利用は「情報システム室から供与されたメールソフト等を利用することと」ともしています。メールボックスの整理を各職員が行い手動で削除作業をしていることは考えいにくいので、パソコンからメールを受信するとサーバから削除される設定などで対応していることが推測されます。

金融庁

 金融庁は「文書管理等の手引き」で、「行政文書に該当する情報を含む電子メールについて、プリントアウトして共通の書棚等においてドッチファイルで管理するか、個人端末で仮保存した上で総合的文書管理システム等に登録し、適正に管理する必要がある。なお、クライアントパソコンのハードディスクには許容量があり、容量がいっぱいになると、トラブルを招く可能性があるため、不要なデータを速やかに削除すること。」としています。メールは内容によって行政文書性を判断し管理することを求めていますが、特徴的なのは、パソコンに保存されているメールも、パソコンのハードディスクの容量を理由に不要なメールの削除を求めていることです。どれだけ容量の小さいパソコンを使っているのでしょうか。

防衛省

 防衛省は、メールをサーバから自動削除している省庁の一つです。「防衛省中央OAネットワーク・システム運用管理要綱」には、電子メールの利用者の責務として「システム利用者は、システム管理者が機関等運用管理者に別途通知する個人のメールボックスに格納できる電子メールの総容量を考慮し、必要に応じてバックアップを行ったうえで、適宜、メールボックスから不要な電子メールを削除しなければならない」とあります。利用者が削除等をすることになっていますが、自動削除も行っていることから、自動削除までの期間内に求められる対応と読むことができます。ただ、同じ要綱で定めているメール利用者の責務は、メールソフトを利用して送受信していることを前提にしているので、メールはパソコンに保存されていることになります。

国税庁

 国税庁も自動削除をしているところの一つです。「国税庁LAN運用要領」では、「利用者は、運用管理者から付与されたユーザーID、メールアドレスおよび指定されたソフトウェアを用いて、メール機能を利用することができる」としていますので、パソコンからメールを送受信していると理解してよいでしょう。

 「国税庁行政文書管理規則細則(事務運営指針)」で電子メールの扱いを定めており、「平成21年2月16日付官総7-1他1課共同「国税庁WANの電子メール機能を利用した行政文書の送受信等について」(事務運営指針)において送受信できることとされている行政文書の原本等(以下「メール文書の原本等」という。)のうち、保存期間が1年以上のものについては、文書管理システムまたは紙に出力して保存期間が満了するまで保存する」「メール文書の原本等のうち、保存期間が1年未満の場合は、紙に出力して保存期間が満了するまで保存する」「受信した電子メールは、読後速やかにサーバから削除するものとする」と定めています。1年以上は文書管理システムで電子媒体で保存するか、プリントアウトして保存、1年未満はプリントアウトして保存、それ以外は速やかに削除となっているので、電子データで保存されるメールは非常に限られていると推測できます。

 国税庁の特徴は、メールの送信履歴の点検を定めていることです。「インターネット環境運用要領(事務運営指針)」では、「情報システムセキュリティ責任者は、取得した電子メールの送信履歴を基に、公式メールアドレス別の送信履歴一覧表を作成し、課室情報セキュリティ責任者に点検対象月の翌月末までに送付する」とし、「送信履歴」の一覧を点検することにしています。点検の趣旨は「許可のない電子メールによる電子メールによる電子情報の送信の有無」を確認するものであるとされています。情報セキュリティの観点から、メールの送信=情報管理上の問題として点検をするものの、「受信」は問わないようなので、行政文書の管理の点検とは明らかに異なるように思われます。

警察庁

 警察庁は、異動時を想定したルール設定をしています。「警察WANシステム電子メール利用要領」には、「引継ぎ用フォルダ(利用者が、移動時等において後任者に引き継ぐ必要がある電子メール等を一時的に蓄積しておくためのフォルダをいう)」というものがあります。通常は、「メールボックスに蓄積される電子メールの容量が一定値に達すると、送受信が不能になることから、利用者は、適宜用済みの電子メールを削除するとともに、保存を要する電子メールについては端末装置等に保存するなど、メールボックスに蓄積される電子メールの容量の削減に努めること」とし、容量制限を超えないようにメールサーバにあるメールの整理を求めていますが、端末装置(パソコン)に保存することともしていますので、パソコンから送受信をしていると理解してもよいのではないかと思います。

 このほかに異動時の対応として「利用者は、異動時等においては、原則としてメールボックスの内容を消去するものとし、利用者の所属する所属の長は必要に応じてメールボックスの削除状況を確認すること。なお、後任者に引き継ぐ必要がある電子メールについては、別途、設置する引継ぎ用フォルダに保存し、確実に保存すること」とし、異動とともに消去し引き継ぐ分をフォルダに保存することとしています。また、警察庁内にいる間は個人IDとメールボックスを継続して利用するものの、ID抹消とともにメールボックスが削除されることから、「必要な電子メールについては、後任者に引き継ぐ作業を行うこと」としています。警察庁の場合、都道府県警察に異動というパターンがあり得るので、その場合は個人IDが警察庁のシステムから削除されるということではないか、と推測しています。

外務省

 内規ではありませんが、外務省は「行政文書の範囲の考え方とケーススタディ」で、「外務省のメールアドレスで送受信した電子メール」についてケースバイケースとしつつ、「外務省員が、業務のために送受信したメールは、その保存形態にかかわらず行政文書に該当する(送受信したということは、他の職員とメールの内容を共有しているとみなされる)」と考え方の原則を示しています。また、「外務省の業務とは関係なく送受信されたメール(歓送迎会の案内等)は、行政文書に該当しない」との考え方を示しています。ただ、外務省はその他の内規にメールの扱いについての定めが見当たらないので実態は不明です。

自動削除は業務効率化?

 また、メールサーバからの自動削除のような仕組みは、情報セキュリティ上は各省庁の判断で可能になっている根拠となっていると思われるものとして、「政府機関の情報セキュリティ対策のための統一基準」の規定があります。そこでは、「情報システムセキュリティ責任者は、行政事務従事者による規定の遵守を支援する機能について情報セキュリティリスクと業務効率化の観点から支援する範囲を検討し、当該機能を持つ情報システムを構築すること」としています。

 システムセキュリティ上の規定の遵守のために、メールの自動削除システムを入れることは職員の業務効率化に資する(メールボックスの整理を手動でコ行わなくて済むなど)とも言えそうです。ただ、それ自体が問題というより、問題の本質はどこにメールが専ら保存される仕組みにしているのか、というところにあります。システム的な自動削除ではなくても、メールソフトの設定で事実上の自動削除度同じこともできるので、何を論点とするかはよく考える必要があります。

まとめ

 このような各省庁の扱いをまとめると、メールを原則行政文書としていたのは公正取引委員会と外務省です。しかし、公取はメールを原則1年未満の保存期間文書とし、かつ個人文書と一緒に保存しているので、事実上管理されていない行政文書であるので、他省庁と特筆すべき違いはないと言えます。

 それ以外の省庁は、メールサーバにあるメールボックスの容量制限から、メールボックスのメールの整理を義務付けているものの、通常はパソコンからメールの送受信を行っていると思われるため、メールサーバからの自動削除がメールの廃棄とはなっていないと言えます。しかしながら、メールが原則行政文書として位置づけているとは言い難く、内容から行政文書として保存が必要なものは管理されている、それは職員個人が判断・作業を行っているということになります。メールの扱いに関する内規がない省庁も、ほぼ同様なのではないかと思われます。

 前述の通り、こうした実態をそのまま反映したのが12月末に改正された行政文書管理ガイドラインです。これをベースラインに現在各省庁の内部ルールが整備されていますが、少なくとも、来年度に予定されている電子文書の管理の検討が内閣府で予定されていますので、その時にどこまで現状追認ではない議論ができるか、というところが勝負所になるのではないかと思います。

 また、今の議論はもっぱら公用IDのメールについてですが、出先ではLINEで職員同士が連絡を取り合っていたという話も聞きます。また、庁舎外では公用メールは使えないことが一般的なので、私用のメールを利用する場合なども一定の手順も決まっていますが、それで十分かなど、周辺まで含めて何を議論すべきかという点も整理が必要です。特に職員以外の政務三役や秘書官などは、公用メールではないメールや通信手段を仕事上用いていることも想定する必要があるのではないかと考えています。現実的に議論すべき論点を考えていく必要があると思います。
【文責:三木由希子】

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