【ブログ】1年未満保存文書という問題

 森友学園と南スーダンPKO日報問題の共通点は、間違いなく1年未満保存という行政文書の存在。1年未満保存という存在をどうコントロールするかは、正直とても難しい問題だと思う。

 情報公開クリアリングハウスでは、意見書を4月12日付で出し、1年未満保存文書の原則廃止などを提案している。しかし、1年未満保存文書を原則廃止はとてつもなく高いハードルであるのは間違いない。そこで、意見書では原則廃止だけでなく

 行政文書の定義の見直し(作成した文書を個人メモとしにくいものにする)
  →文書の作成義務を行政文書の作成義務にする
   →行政文書の作成義務の趣旨に照らした行政文書の保存義務を規定する
    →行政文書の保存義務に沿った行政文書ファイルの作成にする

という、法の抜け穴となっている部分を丁寧に埋めるようなものを提案している。公文書管理法の趣旨を徹底し、制度としての信頼性をどう確保するのかが重要だと考えたからだ。ちなみに、行政文書の管理から廃棄のプロセスも、複層的に構成した意見としている。意見書の作りとして、1年未満保存の原則廃止から入っているので、構造的な意図が伝わりにくかったかなと少し反省をしているが、しかし、割とよく考えて構成したつもりだ。立場や考え方が違えば別の提案もあるだろうが、制度としての合理性と実質の担保のバランスは誰がやっても難しい問題。どうしたらより機能する妥当な仕組みに行政的にも社会的にもなるのかは、もっと開かれた試行錯誤ありの議論をしてもよいと思う。正直なところ、懲罰的要素だけが目立つ制度改正の意見などは、言論として強いように見えて、もっとも脆い類の意見だと思う。懲罰的な要素はあってもよいが、そこの言論の強さにこだわると、ろくな議論にはならないだろう。

 ところで、1年未満保存文書の問題は、真剣に取り組まなければならないと今回思ったのは、何も森友学園やPKO日報の問題があったからだけではない。1年未満保存文書という区分は、情報公開法の制定とともに制度上現れたといえるからだ。情報公開法が請求対象となる「行政文書」の定義をいわゆる決裁・供覧等の手続を経たものに限定せず、組織共用性のあるものに拡大させた反作用なのではないかと考えている。

 情報公開法は「行政文書」の定義を行い、施行令で行政文書の管理に関する統一基準を設けていた(現在は、公文書管理法制定にに伴い施行令は改正されている)。このことで、「行政文書」の定義に該当するものを管理の対象とする仕組みとなった。

 それ以前はどうだったのか。今となっては手元に十分な資料があるとは言えないが、少なくとも手元にある資料で比較的まとまったものとして、情報公開法の検討を行った行政改革委員会行政情報公開部会の配布資料がある。1995年12月の行革委員会事務局作成資料によると、管理の対象とする「文書」の範囲にばらつきがあるが、保存期限は最も短いもので1年、長いものは永久保存となっている。総務庁の文書管理規則も部会配布資料に入っているが、「総務庁文書保存期間基準表」によると、やはり1年保存文書が最も短い期間だ。ただ、1年保存文書には「その他特に1年保存の必要があると認められるもの」ともあるので、1年保存の必要があるものを管理する仕組みであったともいえる。

 この時代は「公文書」や「行政文書」の定義がなく、「文書」の定義を各行政機関がそれぞれ規則上設けている状況であったので、何が実際の管理対象になっていたのか、ということはよくわからないところがある。しかし、少なくとも1年未満という保存期間がルール上登場していなかった。

 情報公開法は請求対象として「行政文書」に定義を与えた。法に先んじていた自治体の情報公開条例は、「決裁・供覧」という一定の意思決定等を終えたものを「公文書」と定義し、これのみを請求対象とする仕組みだったので、とても対象が狭かった。森友学園の契約経緯などは、おそらくそもそも対象にならなかっただろう。そこで、法制定の時の専らの関心は、まずはこの決裁供覧の限定を外せるかどうかだった。組織共用文書という考え方にも個人メモ問題があることは指摘しつつ、基本的には請求対象の範囲が条例より拡大したことは率直に当時も評価をしていた。

 情報公開法の請求対象となったことで、行政文書と定義された文書を管理するため、従来は各行政機関がそれぞれ規定していた文書管理規則に対して、統一的な基準を施行令で定めることになった。施行令案の各省庁協議の記録を見ると、施行令案策定の前から、「文書管理規則等研究会ガイドライン検討会」が開催されていたようで、施行令案が提示される前までは「その他、上記に準ずるものであって、行政機関の長が少なくとも1年保存する必要があると認められるもの」というものが示されていたようだ。この部分が施行令案では削除され、その代わりに「その他」として「事務処理上必要な一年未満の期間」というものが出てくる。この削除と変更に各省庁からの質問が多数出ている。これについて総務庁は、決裁文書は1年、決裁文書以外で別表の特定項目に該当しないものは1年未満の保存で足りると整理したと回答している。

 決裁文書以外なので、組織共用文書という行政文書の定義によって、決裁・供覧以外の文書で一定の事項以外のもので、事務処理上の必要性から作成されているものについては、1年未満とすることができる、という今につながる整理がされている。この、「その他の行政文書」の「事務処理上必要な一年未満の期間」は案通りに施行令になっている。

 行政文書管理については、施行令の統一基準だけでなく、これを受けるような形で「行政文書の管理方策に関するガイドライン」が策定されている。このガイドラインの別表で行政文書の最低保存期間基準が定められ、「その他の行政文書」は「週間、月間予定表」「随時発生し、短期に廃棄するもの」「1年以上の保存を要しないもの」という行政文書の類型が示されることになった。これが、今に続く1年未満保存文書だ。

 情報公開法で「行政文書」を定義し、その行政文書について公文書管理法が管理を定めるという構造になっているので、今の問題は情報公開法ができた時点で起こっていた問題だ。すでに述べた通り、行政文書の定義が自治体情報公開条例の最悪の状態を回避したこと、政府がアカウンタビリティを果たすべき範囲と近づけようとしたこと自体は、何ら否定されることではなく、むしろ前進だった。ただ、よい面には必ず反作用があるということは、ここでも言えることだ。情報公開法がもたらした前進の反作用がわかりやすく顕在化している今、情報公開法制定を推進してきた私たちとしては、その結果の反作用と向き合わなければならないと思う。公文書管理法をどうするかについて、魔法のような解決策はないので、何をすればより良くなるのかを考えたい。(三木 由希子)

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