【秘密指定制度日米比較③】秘密指定権者と不適切な秘密指定

 秘密指定の権限を持つ者の範囲が日米で異なっているので、それを整理してみます。

 なお、過去記事は以下の通りです。
  【秘密指定制度日米比較①】秘密指定制度の違い、制度の目的
  【秘密指定制度日米比較②】秘密指定の区分・条件

 日本の秘密指定の権限は次のようになっています。

 ○法律によるもの
  防衛秘密・特別管理秘密・・・防衛大臣
  特定秘密・・・各行政機関の長

 ○省秘・庁秘
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 ※外務省は少し古い資料によっているので現段階では異なる可能性があります。

 防衛省秘は、2012年2月段階で防衛省に確認をしたところで、内局で約50名に秘密指定権限があることがわかっています。それ以外の「管理者」も含めると相当数になることは容易に推測がつきます。警察庁・外務省は、「秘」に関しては結構な人数になりそうです。

 日本の仕組みとしては、法律に基づくものは「大臣」、それ以外の内部ルールでは大臣の関与しないものとして運用されていることがわかります。

 米大統領令ではどうなっているのかというと、機密指定権者は以下にあるとされています。

 ①大統領・副大統領
 ②大統領が指定した行政機関の長と上級幹部職委員
 ③権限を委任された連邦政府職員

「機密(Top Secret)」の指定権限は①・②のみで、③については「秘密(Confidential)」のみの指定権限の場合もあるようです。

 毎年、国立公文書館情報保全監察局(The Information Security Oversight Office)が大統領に提出している報告書があります。これは、公開可能な形に編集されて公表されており、そこで秘密指定区分ごとに指定権限を持つ人数が報告されています。

【原機密指定権者】
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 「機密(Top Secret)」「極秘(Secret)」「秘密(Confidential)」でそれぞれどのくらい秘密指定権限があるかというと、結構な数になります。機密の指定権限を持つ人は、極秘・秘密の指定権限もある、極秘の指定権限があれば秘密の指定権限があるということになりますから、秘密の指定権限を持つ人数=合計人数ということですね。2008年から人数は減少傾向にあるようです。

 一見、日本の防衛秘密などのように大臣にしか権限がないのに比べて、アメリカは秘密指定権限を持つ人が多いので、日本の方が厳格に見えるかもしれません。しかし、防衛秘密は大臣に上申されて決定がされますが、その前に防衛秘密管理者などが実質的な秘密指定の処理をしているので、大臣がすべてをコントロールしているというのは形式的なものといえます。

 一方、アメリカで秘密指定権者が多いことによって、「責任者出てこい!」といった時に実質的な責任者がはっきりしているということも言えそうです。米大統領令では、以下の事項について機密指定を禁止しています。

 ①法令違反、非効率性の助長、行政上の過誤の隠ぺい
 ②特定の個人、組織、行政機関に生じる問題の予防
 ③競争の制限
 ④国家安全保障上の利益の保護に必要のない情報の公開の妨害・遅延

 そして、指定権者や秘密指定された記録にアクセスする者が上記の情報を機密化し、情報の機密化を継続することを故意・過失により行った場合の懲罰を定めています。日本だと、懲戒処分に相当するような感じでしょうか。指定権限を持つ者も処罰の対象になることになっています。

 日本では、そもそも不適切な秘密指定の禁止規定は防衛秘密にも内部ルールによる秘密指定にもありません。行政は間違わない、という前提でしかルールは作らないということでしょうか。それに、法律に基づく秘密指定だと、大臣にしか権限がないですから、不適当な秘密指定に対する懲罰を法に書くことにはならないでしょう。懲戒処分の対象としてどう位置づけられているのかは不明です。

 ただ、米大統領令でも、懲罰の対象から大統領・副大統領は外れていますから、大きな意思で決まったことは、日米ともにコントロールは難しい、ということではあると思います。(続く)

文責 三木由希子

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