渋谷区情報公開条例改正案に関する意見

 2013年9月の渋谷区議会で、情報公開条例の改正案が提案され審議されています。

 この改正条例案には、①権利濫用規定の新設、②手数料を無料としていたのを手数料を徴収するとして、コピー代を1枚10円から20円に値上げをする、という内容を含んでいます。

 改正条例案の提出に至るまでには、昨年度の区民からのコピー代値上げの請願、情報公開・個人情報保護運営審議会での審議・答申などを経ていますが、改正内容には問題があるという認識の元、渋谷区議会議長と各会派宛に意見書を提出いたしました。

 渋谷区情報公開条例改正案
 渋谷区情報公開・個人情報保護運営審議会答申

 渋谷区情報公開条例改正案に関する意見(PDF版)

<以下、テキスト>

 

2013年9月7日

渋谷区議会議長 殿
渋谷区議会各会派 御中

渋谷区情報公開条例改正案に関する意見

特定非営利活動法人情報公開クリアリングハウス
理事長 三木 由希子

 当法人は、市民の知る権利の擁護と確立を目指して活動する特定非営利活動法人です。

 渋谷区議会9月定例会に提案の「渋谷区情報公開条例の一部を改正する条例」について、重大な懸念を持たざるを得ない内容が含まれていると考えています。ついては、良識ある渋谷区議会において十分な審議をお願いしたく、下記の通り意見を申し述べます。

1 権利濫用による却下について

 渋谷区情報公開条例第9条に第3項が追加され、第1号で補正に応じなかった場合、第2号で「公開請求がこの条例の目的を逸脱するものであり、権利の濫用と認められる場合」については、公開請求を却下するとされている。
 第2号はいわゆる権利の濫用に対する却下を定めたものであり、権利の濫用に当たるか否かの判断で「条例の目的を逸脱する」とするのには問題がある。
 「条例の目的」を第1条の規定であるとするならば、①区民の知る権利の保障、②区民に説明する責務、③公正で開かれた区政の推進の進展を図る、とする目的に反しているか否かを実施機関が判断することによって権利の濫用と認定され得る規定であるからだ。本来、情報公開条例においては、実施機関が保有する情報はすべて知る権利を保障する対象であること、それらの情報を通じて説明する責務があること、実施機関が公開したいか否かを問わずに情報公開されることによって、「公正で開かれた区政の推進」となるものである。そのため、開示請求をするという行為そのものが、目的規定に照らして正当なものとされなければならず、問題となるのは、その行使の仕方が一般法理である権利の濫用に該当するような著しい逸脱があるときに限られるべきである。
 しかしながら、改正条例案の規定は、「条例の目的を逸脱する」と定めるものとしており、逸脱の範囲にも「著しい」などの要件もないものとなっている。条例の目的に照らしてどのような情報公開請求が正当化されるのかという判断を実施機関に許容するものとなっている。このような規定は、実施機関の裁量的な情報公開請求の却下を招くばかりか、一般法理を越えた規定の適用を許容し、不当に区民の権利を侵害するものである。
 以上のことから、本規定を設けることは不適当である

2 手数料に関する規定について

 現行の渋谷区情報公開条例は手数料を徴収しないと定め、公開の実施に当たって写しの交付に係る実費を徴収するとしている。改正条例案では、写しの交付について実費から「手数料の徴収」に変更をし、加えて紙のコピー代は1枚10円から20円に値上げをするとしている。
 現行条例では、情報公開請求に係る実施機関の諸業務を通常業務の範囲内ととらえて手数料を取らず、写しの交付の実費のみの徴収としていたと言える。区民に対して情報公開を実施することを、日常の業務の範囲内とする条例の提示している点で、情報公開に対して前向きに取り組むという姿勢を区民に対して明示していたことは評価に値する。条例改正案では、こうした姿勢を放棄し、情報公開請求に係る諸業務は通常業務ではなく付加された業務として位置づけ、非日常業務として情報公開に取り組むとするのは極めて残念である。加えて、手数料としてコピー代を値上げして、情報公開請求者に対して負担を増加させることは、渋谷区としての情報公開に対する姿勢に疑問を持たせるものである。
 国においては、2001年4月の情報公開法施行時は紙でコピーは1枚20年の手数料を徴収していたところ、2005年4月に施行令を改正し、1枚10円に値下げをしており、OA機器にかかるコストが低減するなどの社会情勢の変化を考えれば、コピー代を値上げをするという判断は、時代に逆行していると言わざるを得ない。また、国においては開示請求手数料として300円を請求段階で徴収をしているが、開示が実施される段階で、コピー代等と相殺され、最初の300円は無料となっており、全面不開示の場合を除き負担が一定軽減される仕組みになっている。
 情報公開・個人情報保護審議会の答申を総合すると、値上げをすべき理由として特別の事例があると思料されるが、個別の事例への対策として全区民に対して影響が及ぶ条例改正はすべきではない。

 以上のことから、当会としては情報公開条例の改正案には問題があると考えており、良識ある議会において十分に審議の上適切なご判断がされることを期待するものである。

以上

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