福島県の県民健康管理調査で実施されている甲状腺検査では、一定の割合で甲状腺にのう胞、結節が認められている。
18歳未満の子どもを対象とした大規模な甲状腺の検査の実施例がないとのことから、福島県外での甲状腺検査の有所見率などの疫学的な調査を行うことを行うことを目的に実施された「福島県外3県における甲状腺結節性疾患有所見率等調査」。環境省から特定非営利活動法人日本乳腺甲状腺超音波医学会に委託され、長崎県、山梨県、青森県の三県で実施された。2013年2月に概要が公表され、3月に最終的な報告が発表された。その後、6月に環境省ホームページで報告書本文の公表が行われた。
【環境省】福島県外3県における甲状腺結節性疾患有所見率等調査成果報告書の公表について
この委託調査は契約時の仕様で「政府担当部局との協議のうえ、…調査委員会を設置し」と書かれている。そこで、会議に関連する情報の公開請求を行った。
調査の実施のために、「甲状腺結節性疾患有所見率等調査委員会」が設けられ、3回の会議を開催。これとは別に、「甲状腺結節性疾患有所見率等調査判定基準ワーキンググループ」が設けられ、こちらも3回の会合が行われた。なお、ワーキンググループに関しては、会議資料が終了後に回収されているため、判定基準を具体的に検討をした情報は不存在となった。
調査委員会の資料と議事録を整理すると、有所見率調査は以下のように行われていたことがわかる。以下にまとめた内容は、基本的に環境省のホームページで公表されている報告書には記載がないものだ。
○調査の実施
調査は、以下で実施されていた。
長崎大学附属病院 → 長崎大学附属の幼稚園、小中校、高校は別に選定
山梨大学附属病院 → 山梨大学附属の幼稚園、小中高校
弘前大学医学部付属病院 → 弘前広島大学附属の幼稚園、小中高校
※タイプミスを修正
調査対象者は、対象とされた幼稚園、小中高校に在籍する子どものうち、同意が得られた者だ。
3県の調査では、調査対象の年齢層に偏りがあり、0~2歳児の調査が未実施、3~5歳と16~18歳の対象者数が少ないという偏りがあった。その理由は、幼稚園では0~2歳児はいないこと、各付属の幼稚園の定員が少ないこと、調査の実施時期が12月で年長の子どもの中で6歳の誕生日を迎えていたものが相当数いたことであったことが、資料を総合すると分かる。また、16~18歳の対象者が少ないのは、長崎大、弘前大での実施分では、高校3年生は受験があるため調査が十分に実施できていないことによること、山梨県では高校生は希望者のみ実施であるため、調査の依頼者に対して参加者が約40%に留まっていたからであることがわかる(第1回議事録、第3回資料)。このことについて、
「福島による今までの検査データによると高校高学年から20歳くらいの年齢に結節が見つかる比率が高くなる傾向にあるため、福島のデータと本調査で行った検査データに差が生じつおそれがある。今後、このことが注目されたときのことを考えB判定の経過を把握しておいた方が良いが、本調査が継続しないと難しいだろう。数年後の医療機関への追跡調査は重要であると考える。」
と第1回議事録にはある。
また、3地域の有所見率を解釈をするうえで考えておくべきバイアスとして検討の俎上に挙がっていたのは、以下の事項だ(第1回調査委員会資料)」
(1)選択バイアス
①長崎、山梨、弘前を選んだことによるバイアス
②対象学校のバイアス(各地域各学年1項のみで実施しているので、社会、経済、教育的バイアス等が生じている可能性がある)
(2)同意、不同意によるバイアス(子どもの体調に不安があると同意を得にくい等)
(3)検査実施者によるバイアス
(4)家族歴、既往歴情報がないことによるバイアス
○調査結果の検討
第2回調査委員会(2月23日開催)では、中間段階の集計の検討が行われている。議事録によると、
①調査対象者は3地域全体で男女比ほぼ同じ、年齢区分・性別による判定割合も同じ傾向が見られた。ただし、各県別では判定割合にばらつきがみられる。
②16~18歳の対象者の男女比が異なるのは、協力高校の性質等(弘前はもともと女子校、長崎は理系クラス)によるもの
③3地域での結果は、それぞれ異なってるが、統計学的に出すべきか、それとも単純集計したものにすべきかを検討し、3地域間におけるデータ補正を行う
第3回調査委員会(3月27日開催)では、③を受けて年齢、性別、地域別有所見率などの補正を行ったデータが示されている。第3回議事録で補正データについて「年齢調整を行っても、3県で結果にばらつきがあることが再確認された」とある。
○調査結果の発表
第2回調査委員会では、「事業の内容の発表、公表方法について」が検討されている。
基本的な考え方としては、配布資料では「本事業の目的は、各地(今回は3地域)の超音波による甲状腺の有所見者率を把握することであり、福島県のそれとの比較は行わない」としている。議事録を確認すると、これに関して「本調査結果と福島県データを比較することは、本委員会の目的ではないので行わない。ただし、本調査の公表データを利用して、福島が独自に作成することについては問題としない」との確認がされている。なお、配布資料では、発表・論文について「大学ごとの事業内容は、研究としての位置づけであり、大学独自に発表可能とする」と確認されている。
【情報公開文書】
・第1回甲状腺結節性疾患有所見率等調査委員会議事次第・資料(2012年12月1日)
・第1回甲状腺結節性疾患有所見率等調査委員会議事録(2012年12月1日)
・第2回甲状腺結節性疾患有所見率等調査委員会議事次第・資料(2013年2月23日)
・第2回甲状腺結節性疾患有所見率等調査委員会議事録(2013年2月23日)
・第3回甲状腺結節性疾患有所見率等調査委員会議事次第・資料(2013年3月27日)
・第3回甲状腺結節性疾患有所見率等調査委員会議事録(2013年3月27日)
・甲状腺結節性疾患有所見率等調査判定基準ワーキンググループ議事次第・資料(1~3回)
※第1、2回は資料が会議終了後回収されているため議事次第のみ
・甲状腺結節性疾患有所見率等調査判定基準ワーキンググループ議事録(1~3回)
開示請求 | 2013年5月22日付 |
開示決定 | 2013年6月18日付 |
決定者 | 環境大臣 |
決定内容 | 一部開示 |