意思決定過程・事務事業の実績に係る文書の作成に関する意見

リリース
2012年4月25日

 
 2012年4月24日付で、添付の通り「意思決定過程・事務事業の実績に係る文書の作成に関する意見」を、公文書管理担当である岡田克也副総理及び公文書管理委員長あてに送付しました。
意見の背景は以下の通りです。

  1. 東日本大震災及び福島第一原子力発電所事故に関する会議の議事録未作成問題について、公文書管理委員会においてその原因と改善策が検討されてきました。しかし、公文書管理委員会で検討されている内容及び今般のいわゆる議事録未作成問題は、震災・原発事故という非常事態であることの問題ではなく、政府における意思決定のプロセスの記録の在り方の問題です。
  2. 記録の作成とは、将来の検証のためにあるのではなく、今の行政運営に必要なものであり、今生きている市民によって役に立つものであるべきであり、あくまでも視点は「今現在」にある必要があります。翻って震災・原発事故対応を見ると、意思決定のプロセスは、議事録未作成問題が象徴するように、対応している時点での客観的なプロセスの共有がどのようになされていたのか懸念せざるを得ない状況です。
  3. 以上のことから、適正な行政運営の観点から、意思決定過程と事務事業の実績に関する文書の作成について意見を申し述べるものです。

以上

 ※意思決定過程・事務事業の実績に係る文書の作成に関する意見


2012年4月24日

 
内閣府特命大臣(公文書管理担当) 岡 田  克 也 様
公文書管理委員会委員長 御 厨  貴 様

意思決定過程・事務事業の実績に係る文書の作成に関する意見

 特定非営利活動法人情報公開クリアリングハウス
理事長  三 木  由 希 子

 当会は、市民の知る権利の擁護と確立を目指して活動する特定非営利活動法人です。
 東日本大震災と福島第一原子力発電所の事故に係る会議のいわゆる議事録未作成問題について、公文書管理委員会で鋭意調査・検討されていることに敬意を表します。
 4月20日に開催された第17回公文書管理委員会において、いわゆる議事録未作成問題の「原因分析(案)」と「改善策たたき台(案)」が検討されました。今般の公文書管理委員会での検討事項については、諮問書の類がホームページ上で公表されている範囲では見当たらないため、第12回公文書管理委員会において岡田大臣が冒頭に述べた範囲であると思われます。それによれば、①いわゆる議事録未作成問題についての原因解明と、②再発防止の方策の検討の2点であり、これを受けて、緊急事態における会議等の記録の作成・保存についての「改善策たたき台(案)」が第17回公文書管理委員会で提示されたものと思われます。
 しかしながら、「改善策たたき台(案)」で示されている改善策は、前提となる状況の把握も限定的と考えています。いわゆる議事録未作成問題の根底は、公文書管理法の解釈運用のあり方そのものの問題があると思われますので、以下の通り意見を申し述べます。

1.公文書管理法第4条が定める「意思決定に至る過程」の文書作成義務は、意思決定を行う会議の記録を意味するのではない。情報や政策の取捨選択を含む意思決定に至るプロセスの記録を義務づけたものであるべきである

 公文書管理法第4条の定める文書の作成義務は、「当該行政機関の意思決定」を「当該行政機関における経緯も含めた意思決定に至る過程」と国会で修正されたものである。このような修正が行われた背景には、「意思決定」に限ると、決裁など庁内の最終的な意思決定や、意思決定を伴う会議の記録に文書作成義務の範囲がとどまり、意思決定の背景や経緯を含むプロセスが義務的に記録されず、結果的に行政文書として保管されない蓋然性が高いと思料されたためと考えられる。このような意思決定過程の記録の欠落は、行政機関内での合理的で客観的な経緯の共有を阻み、記録化されないことで市民のアクセスを遮断し、歴史的な検証をも拒むものだ。2003年12月に設置された公文書等の適切な管理、保存及び利用に関する懇談会の第一次報告書では、立法経緯を含めて政府の諸活動の経緯が体系的に保管されていない日本の現状について言及しており(*1)、従前から意思決定に至る経緯を含むプロセスの記録の欠落という課題があることは認識されていたところである。

 こうした立法経緯を踏まえるならば、「経緯も含めた意思決定に至る過程」とは、意思決定の場の記録だけでなく、その前段の情報や政策の取捨選択を誰がどのように行ったのかということも含めて記録されるべきであるし、会議体で議論を行った場合は、その会議の内容は誰がどのような立場で何を言ったのかが記録されるべきである。政策の意思決定は、常に選択の結果であり、その選択をどのような立場の人がどうかかわったのかを記録することこそ、「経緯も含めた意思決定に至る過程」であるべきである。本来は、会議体の議事録作成という狭い問題ではなく、それも含めたプロセスの記録の問題である。そしてこれは、公文書管理法の目的規定が定める「現在及び将来の国民に説明する責務を全うする」ということとは何か、という問題につながるものである。

 しかしながら、今般の東日本大震災及び福島第一原子力発電所事故に関し、会議体以外にどのような意思決定に至る経緯が残されているのかは明らかではない。「原因分析(案)」には、議事録等を作成する体制の不備などに触れているが、これはひいては活動の記録を客観的に記録し、政府内で共有して緊急事態の対応に当たるという合理的対応に欠けていたことの証左であろう。そのため、政府の説明責任が行政文書としてどの程度果たされ得るのかについては、いわゆる議事録未作成問題が顕在化したことによって、大いに疑問を持たざるを得ない状況である。

 このような観点から第17回公文書管理委員会で示された「改善策たたき台(案)」を見ると、緊急事態の会議体については、「公文書管理法においては議事録又は議事概要の作成が一律に求められているものではないとはいえ、東日本大震災に対応するために設置された各会議等において、より積極的な議事内容の記録の作成を行うことが望ましかったと考えられる」と冒頭で触れているように、「経緯も含めた意思決定に至る過程」とは何かという議論を欠いたまま、会議体の議事録作成に焦点を絞ったうえで、緊急事態であるがゆえの特例的な対応であることが前提となっている。今後の検討課題として、「改善策たたき台(案)」では「歴史的緊急事態に対応する会議等以外の重要な意思決定の過程にかかる記録の作成について、引き続き検討を行う」と言及されているが、いずれも会議体の議事録等の作成に焦点化されており、「経緯も含めた意思決定に至る過程」とは何かについては検討項目となっていない。

 いわゆる議事録未作成問題を、会議体の議事録作成という問題に矮小化せず、意思決定に至る過程とは何か、政府の説明責任とは何かという点について、真摯に議論をし、公文書管理法の解釈運用に反映させる必要がある。

2.「事務事業型の会議等」、「意思決定型の会議」を区分して記録の作成方法が異なるのは、「経緯も含む意思決定に至る過程」を狭く解釈した結果である。緊急事態においては両者が混然として、あるいは一体化して進行することを想定して、記録の作成を行うべきある。

 前述のとおり、政策の意思決定は、常に選択の結果であり、その選択をどのような立場の人がどうかかわったのかを記録することこそ、「経緯も含めた意思決定に至る過程」であるべきである。「改善策たたき台(案)」では、被災者生活支援チームと官邸緊急参集チームを例に、事務事業型の会議等は事務事業の実績に相当する記録を残すものとされているが、被災者生活支援チームは「対処方針のとりまとめについて関係府省と調整」(*2)という機能を持ち、鑑定緊急参集チームは「初動措置の総合調整等を行う」(*3)という機能を持つと説明されている。

 政府として決めた方針に基づき、事務事業を執行や、情報共有のための会議体という側面を持つことは否定しないが、調整等を行う機能は、意思決定に連なる行為であると考えるべきである。このような観点から、被災者生活支援チームと官邸緊急参集チームは、政府内の意思決定過程にあり、かつ事務事業を遂行する機能も有していると認識すべきであり、意思決定に至る過程の一端に連なっているものと位置づけ、原則として議事録は作成されるべきである。

3.緊急事態ではそれに対応する政府は様々なことに同時並行的に対応し、多くの判断を即断的に行い、それらを遂行する必要がある。そのような状況であればこそ、意思決定過程や事務事業の実績はリアルタイムで客観的・合理的に記録され、共有されている必要がある。

 「改善策たたき台(案)」では、「事前にマニュアル等を整備し、歴史的緊急事態に対応する会議等の議事内容の記録の作成、事後作成の場合の方法・期限、記録の作成の責任体制、記録の作成も含めた訓練等を行うなどを明確化する等の措置」を事前対応として行うこととされている。これらのことは、対策として講じておいた方が良いとは言えるが、そもそも議事録等の意思決定過程の記録が欠落したままで、効果的な震災・原発事故対応が行われたのかという視点に欠けている。

 記録の作成とはそもそも、事後の情報公開が後世の歴史的検証に委ねるために行うものではなく、今現在の行政の適正な運営・執行のために作成されるものであり、また今を生きている市民の生活や健康に貢献すべきものである。確かに、緊急事態における政府の対応は、煩雑・繁忙を極め、発生当初は限られた情報の中で対策を講じざるを得ないこともあり、また同時並行的に様々な事象が動き、業務を遂行しなければならない事態であり、このような中で「議事録」という体裁を整えることに時間を費やすのは、合理的選択ではない。

 しかしながら、どのような情報や政策が取捨選択をされたのか、それに誰が関与していたのか、誰がどのような背景で指示を行ったのか、決定を行ったのかなどの意思決定に至るプロセスがリアルタイムに記録され、共有されていないのは、政府の対応の混乱や不備を招き、結果的に市民に向けて発信される情報の混乱や、必要な情報が提供されないなどの市民生活や市民の健康に大きな影響を及ぼすことになる。これは、危機管理の失敗というだけでなく、行政運営の失敗ともいうべき問題であることは、今回の緊急事態において多くの市民が痛感したところであろう。

 公文書管理委員会によって各会議体に対して行ったヒアリング調査では、例えば原子力災害対策本部は「出席者による議事メモ、記録等は存在しているが、本部として確認された議事概要は未作成」と回答しており、組織として記録が作成されていないため客観的な記録の共有がなされずに対応が行われていたことが明らかになっている。事後に記録を作成すればよいという問題ではないということを明確に認識し、議事録の体裁を整えるのは事後でも可であっても、客観的な記録の作成と共有は、非常事態の対応であるこそ必要であることを確認すべきである。

*1 「公文書等の適切な管理、保存及び利用のための体制整備について-未来に残す歴史的文書・アーカイブズの充実に向けて-」(公文書等の適切な管理、保存及び利用に関する懇談会第一次報告書 平成16年6月28日)5ページ

「現実は、戦後の日本についての記録を知りたければ、むしろ米国の国立公文書館を訪ねた方がよいというのが研究者の一般的な認識である。例えば、国家賠償法(昭和22年法律第125号)の立法過程に関する記録は、我が国の国立公文書館において発見することはできないが、米国の国立公文書館に記録が存在する。10年ほど前に自らの機関で行われた意思決定がどのような経過でなされたかについての記録が当該機関(省庁)に存在せず、米国の国立公文書館で発見されたという話もある。
 戦後60年を経過しようとしているにもかかわらず、戦後を対象とした歴史研究がほとんどなされていないのも公文書等の体系的保存がなされていないことと無関係ではない。1950年代を対象とした数少ない歴史研究は、ほとんどが、関係者へのインタビューや口述記録や雑誌記事、報道等、さらには米国国立公文書館所蔵の資料で客観的資料の不足を克服しようとしたものであって、国立公文書館所蔵の公文書等は、ほとんど貢献していない。歴史の実証研究という観点からいって諸外国に比べて大きな制約がある。」(http://www8.cao.go.jp/chosei/koubun/kako_kaigi/kondankai/houkokusho1/houkokusho1.pdf)

*2 http://www.cao.go.jp/shien/index.html
*3 http://www.cas.go.jp/jp/gaiyou/jimu/pdf/kinkyu_team.pdf

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特定非営利活動法人情報公開クリアリングハウス
〒160-0008 東京都新宿区三栄町16-4 芝本マンション403
TEL.03-5269-1846 FAX.03-5269-0944 携帯 080-3714-7257

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