【ブログ】総理夫人付き職員の公務と職務と行政文書

  総理夫人付き職員(公務員)が財務省に森友学園の一件で問い合わせをした結果を文書にまとめ、送ったFAXは「行政文書」に該当しないという。

 この間のいろいろな情報をよ~く眺めていて、公務と職務と行政文書いう言葉を並べてみると、合わないつじつま合わせの風景が見えてくる。

 そもそもの問題は、結局、夫人付き職員という人の所掌の職務とは一体何なのかがよくわからないということ。民進党の逢坂誠二衆議院議員の質問主意書に対する4月4日の政府答弁書を見ると、「内閣総理大臣の夫人が内閣総理大臣の公務の遂行を補助すること(以下、「総理公務補助」という)を支援する職員は、総理公務補助を支援すべき旨の国家公務員法第98条第1項の規定に基づく職務命令を受けている」ということになっている。この職務命令の範囲が不明。総理公務補助の範囲が一体何なのかがわからないので、当然と言えば当然のこと。

 そして、森友学園の一件で財務省に「自らに問い合わせのあった当該職務命令を受けている職務に関係しない照会」をして結果を紹介者に情報提供したことは、「公務員として丁寧に対応したものであるが、当該職員の職務として行ったものではない」から、FAXは職務上作成したものではないので「行政文書」ではない、ということになっている。

 ここで公務と職務と行政文書を並べてみる。

 まずは、「公務」。総理公務補助の支援とは何かをあいまいにして、とりあえず夫人について回っている職員の仕事を「公務」としておかないと、職務中やその行き帰りに事故などがあった場合に、公務員災害補償の対象にならなくなるのではないか。民間でいうと労災のようなもの。補償の対象になるのは、「公務上の災害又は通勤による災害」だ。だから、選挙応援をする夫人について出張するのも、総理公務補助か否かよくわからない出張に同行するのも、「公務」としておかないと何かあったとき大変、ということになる。

 次に「職務」。「公務」と「職務」が厳密な意味でどう違うかがいまいちわからないが、夫人付き職員の総理公務補助支援職員の夫人付きの仕事は「公務」であるが、財務省の問い合わせや文書を作ってFAXを送ることは「職務」ではないという。職務命令の範囲ではないからとされているが、公務員は通常「職務専念義務」というものがある。くだんのFAXは、籠池氏が提供したものによれば、送信時間が平日の17時台。まだ勤務時間中だよね、という時間にFAXを送っている。これを「職務」ではないとすると、夫人付き職員は「職務専念義務」を免除されている特別な存在か、あるいは、FAXや夫人付き職員の作成・取得文書を行政文書ではないという方便のために、都合よく言葉を使い分けているかのどちらか。

 職務専念義務が免除されるのは、「法律または命令の定める場合」に限られ、人事院の資料によると、「法令により職務専念義務が免除されていない場合は全て、「正当な理由なく勤務を欠く」こととなり、職務専念義務違反、つまり欠勤と評価されますので、懲戒処分の対象となり得ます。」ということになる。実際に懲戒処分等をするかどうかは各種事情を考慮することともされているので、この件の場合は「各種事情」と「政治力」が働いて処分なんて話にはならないだろう。

 そうすると、「公務」であると認めるべき事情は大いにあるが、「行政文書」の定義が「職員が職務上作成または取得」を要件としているので、「職務」ではないとする分にはどうとでもなるので、より関係者とって都合がよく利益になる、「職務」ではないなどという解釈論が出てきた、ということになるのではないか。

 この仮説が当たっているかどうかはわからないけど、FAXが行政文書ではないのは変だ、違法だというより、かなり巧妙に立ち回っておられる様子が、垣間見えるのである。
 
 ちなみに、少なくとも、官房長官が記者会見で配布をした時点で、くだんのFAXは内閣官房に取得されているはずなので、もはや私文書ではなく行政文書。上から命じられればホイホイ出てくる文書なら、行政機関として管理監督が及ぶ文書であることは言うまでもない。抜け穴が「行政文書」の定義にあることは前からわかっていることだが、それをどう使いこなして自分のものにしているかで、行政組織の本質が見えてくるということでもある。(三木 由希子)

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